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研究における査読の役割:品質と公正性の観点から

The Turnitin Team
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Laura Young
Laura Young
Content Marketing Specialist

研究において査読は、学術研究の品質と公正性を保証するために必須のメカニズムで、科学研究の正確性と信頼性を保持するうえで重要な役割を果たしています。

本記事では、査読の重要性とその複雑さ、査読が直面する課題について深く掘り下げ、研究の公正性を守るうえで査読が果たす重要な役割を明らかにします。また、この必須の評価プロセスにAIが及ぼす影響についても詳しく見ていきます。査読の現状を見てみると、研究成果を検証して科学研究の軌道を形作るために査読の多面性が重要であることが明らかですが、現行の査読プロセスについては改善の余地もあるようです。

研究の質の維持に査読がどのように寄与するか

査読は、研究論文を同じ学問分野の専門家によって精査することを目的としており、科学コミュニティが仮説や方法論、結論を詳しく調べることで、その分野の知識を全体的に強化します。ケリーとサデギ、アデリは「(査読は)著者が当該分野で求められる高水準を満たすよう促すとともに、不当な主張や容認できない解釈、個人の見解が専門家による事前審査なく公表されることがないように、研究データの拡散を管理する機能ももつ」と述べています(2014)。

査読プロセスの公正性は科学全体の信頼性に大きく寄与します。質の保証と承認こそが研究において査読を実施する第一の理由であることは間違いありませんが、実はそれ以外にも特筆すべき利点があります。

方法論の厳格化

学術ジャーナルは科学知識の門番的な役割を果たしており、その出入りを管理するプロセスとして査読が必要不可欠であると多くの人が考えています。査読は、厳格かつ批判的な審査により、最高水準を満たす研究のみが学術コミュニティに広まることを保証します。

このような考えから、査読は研究者らが厳格に標準化された方法論を順守するよう促します。査読者は研究デザインの適切さやデータの収集方法の正確性、統計分析の盤石さを評価します。査読の主な目的の一つは、健全な研究デザインのもとで意味のある成果が生みだされていることを確認することです。誤情報の爆発的増加に対処するために繰り広げられた公開キャンペーン、センス・アバウト・サイエンスでは、「未公表の研究は誰の役にも立たない──研究方法を正確に公表しなければ、他者がその方法が妥当なのか決めることも、その結果を検証するために反復することもできない。欠陥があるかもしれない成果に基づいて健康や公共の安全に関わる決定をくだすのは社会として思慮に欠ける」と述べられています。

研究に対するこのような厳格かつ精選されたアプローチにより、研究者同士で欠陥や偏りのある研究が広まることを阻止し、科学知識の全体的な信頼性と正確性に貢献するのです。

批判的な評価と建設的なフィードバック

アイデアや方法論、研究成果を交換するためのプラットフォームを提供するという点で、査読付きジャーナルはダイナミックな協働の場となっています。査読を通して著者は、同分野の経験豊富な専門家からフィードバックをもらう貴重な機会を得るため、学問全体の発展につながります。建設的な批判と本質を突いた提案は研究者に新たな視点を提供し、議論を洗練させ、結論を強化し、改善点を洗い出すのに役立ちます。このようなフィードバックループを繰り返すことで、つねに改善を続ける文化を醸成し、学術研究の全体的な質を向上させます。

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査読で不正を見抜けるのか

公正性が科学研究の根幹であることは言うまでもありません。出版社は、論文投稿プロセスの中に個々の専門家による品質チェックを組み込むことで、徹底した研究ガイドラインに沿った正確な情報のみを共有するという強い方針を打ち出しています。

しかし、なぜ査読が研究公正を支える重要な要素となっているのでしょうか。カクタス・コミュニケーションズが実施した世界規模の調査では、852人の参加者に研究公正と査読プロセスに対する見解を尋ねました。驚くことに、回答者の78%以上が査読には盗用・剽窃の特定も含めるべきだと考えていました。これに対してルーヒ・ゴーシュは、学術出版と学術コミュニケーションに関するブログ「スカラリー・キッチン」で「これは本当に査読者に求められる活動の範疇なのだろうか?」と疑問を呈しています。同様に、人間が、たとえ当該分野の専門家であっても、盗用されたコンテンツとオリジナルのコンテンツを完全に正確に見分けることができるのか、という疑問もあります。査読プロセスが研究の不正や欺瞞を厳しく精査する役割を果たす一方で、盗用・剽窃やゴーストライティング、あるいはAI生成コンテンツなどの不正行為を特定するという点については、確実な解決策ではありません。査読者は多くの場合がその分野の専門家で、データ操作やねつ造、その他の非倫理的行為の兆候に敏感ですが、それらすべてを防ぐことはできません。

そのように考えると、研究における査読への期待は誤解されているのかもしれません。このことについてホーバックとハーフマンは「査読制度により研究不正や間違いが検知されるという期待と可能性は物議をかもしており、時代とともに発展し、変化してきている。現在、“出版される論文の科学的な公正性を守ること”が査読の中核的な責務の一つであると考える人もいれば、査読制度はそのようなために設計されたものではいし、そうすべきでもないと主張する人もいる」と説明します(2018)。

同様の議論はスミス(2006)が実施した研究でも指摘されています。研究では、重大な誤りを挿入した論文を多くの査読者に配布しました。誤りにまったく気づかない査読者もいましたが、大半の査読者が発見した誤りは25%にとどまりました。科学出版物における査読に関する英国議会下院の報告書では、「査読プロセスにおける公正性は、それに関わる人々の公正性と同程度の強度にしかなり得ない。倫理的な不正行為は査読と科学全体を毀損する。査読は、意図的に欺瞞や不正を見つけるために設計されたものではないが、時として疑わしいケースを発見することもある」と述べられています。

盗用・剽窃の防止を強化するために、多くのジャーナルや出版社が出版前のプロセスで類似性検知ソフトウェアや編集チェッカーを採用しています。これらのツールを活用すると、投稿論文と既存の文献との間で類似性を確認できるので、剽窃文書を掲載し、のちに論文撤回するリスクを減らすことができます。とは言え、万全なシステムは存在せず、これらの方策を用いても盗用・剽窃が起こりうることを認識しておくことが重要です。

査読がどのように公正性を支えるのか

科学的な内容や方法論の評価から、論文の倫理的側面に至るまで、査読のさまざまなメカニズムが一体となって、科学コミュニティ内での信頼と説明責任の文化の醸成に寄与します。査読は数多くの点で研究の公正性を支えており、査読に一般的に求められる表面的な責務以上の役割を果たします。

倫理基準と研究

査読は研究の倫理違反のリスクを軽減するのに役立ちます。査読者は、例えばその研究が世界保健機関(WHO)の定める倫理的なガイドラインを順守しているか綿密に評価し、人間や動物を対象とした研究が最大限の公正性をもって実施されていることを保証します。研究の倫理的な側面を丹念に精査することで、道義に反した研究の阻止を目指すのです。

また、査読プロセスは多くの場合、偏りのない公平な評価のために匿名で行われます。二重盲検での査読が査読者の評価付けと編集者の決定にどれくらい影響するのかを研究したフォックスとマイアー、エーメは「高所得国か英語圏の国、あるいはその両方を満たす国の著者は、査読中に査読者から特定されることで大きな利益(強力なポジティブバイアス)を受け取っており、著者のアイデンティティを匿名化する(二重盲検での査読など)ことで、このバイアスは軽減され、査読プロセスがもっと公正になる」と指摘しています(2023)。プロセスに匿名性をもたせることで、著者名や所属機関、その他の外的要因に関連して起こりうるバイアスを最小限に抑えることができます。個人の事柄よりも研究の長所に目を向けることで、評価プロセス全体を通じて公正性と客観性の強化に注力できます。

結果の検証と再現性

ディアバ-ヌホホとアンポンサ-オフェは「再現性と研究公正はすべての科学的な研究と発見に必須の精神である。再現性と研究公正によって、文書化された研究成果が検証・反復および再現可能であることが証明される。新たな知識は……実証済みの確固たる原則の上に築かれるものだ」と述べています(2021)。査読はその研究で示された結果を検証する役割を果たしており、査読者は実験手順の明確さ、データ分析の正確性、結果の信頼性を評価します。それらの側面を精査することで、査読が研究成果の強靱さを裏付け、その研究が独立して検証・再現できるものであることを保証します。

査読の主な課題

査読は重要な役割を果たしていますが、課題もあります。査読者の時間的な制約や潜在的なバイアス、標準的な評価基準の欠如などがその例です。匿名性を保ちつつ、建設的な批判と研究者支援の均衡を図ろうとすると、難しい作業になりがちです。また、科学文献の急激な増加により、編集者や査読者は査読を実行するうえで実務的な課題も抱えるようになっています。

ケリーとサデギ、アデリ(2014)は、「査読のポジティブな影響にもかかわらず、査読プロセスは実験のイノベーションを阻害し、盗用・剽窃のスクリーニングとしての機能も貧弱であるとの批判もある」と述べます。ケリーらは欠点を認めつつも、査読に代わる完璧なシステムなどなく、オンライン版のみのジャーナルが急増したことで、いっさい査読されていない科学論文が多数存在することを指摘します。そして「このことは、科学知識の進歩とその将来の可能性に重大なリスクをもたらす」と結論付けました。

ルーヒ・ゴーシュが「スカラリー・キッチン」に投稿した記事では、ハリニ・カラマーが「研究公正の問題は多面的である」と書いたことが紹介されています。主な問題は、研究コミュニティが拡大するにつれ、査読すべき投稿論文も急増していることです。そしてその負荷を分担する査読者が不足しているのは明らかです。そのような現状を指摘したカラマーは、「すべての論文に真摯に向き合い、1本1本が要求水準を満たしていると保証するのは不可能に近い。この問題を解決しないかぎり、どの論文が倫理的に問題で、どの論文がそうでないのかを判断できないだろう」と述べています。

目の前の課題に取り組むために、従来の査読モデルと革新的な出版後査読モデルをうまく組み合わせることで、もっとバランスのとれた包括的なアプローチを見つけられるかもしれません。ハンター(2012)によると、出版後査読は読者と著者の間にある障壁を取り払うもので、査読を検閲ではなく、専門家による批評にしようとする試みです。それに対して出版前の査読は「科学の重要な対話を遅らせ、選別し、阻害する」もので、「秘密主義がこの問題を解決することを不可能にしている」とハンターは強調します。

科学の門番としての役割の有効性を測る研究において、シラーとリー、ベロ(2014)はデータセットの中の808本の論文のうち、3つの主流ジャーナルが被引用数の多い論文をリジェクトしたことを発見しました。リジェクトされた論文の中には、上位2%に位置するほど広く引用されている論文14本も含まれていました。これら14本の論文のうち、12本は査読にまで進むことなくリジェクトされました。シラーらは「この結果は、査読が最もインパクトのあるアイデアや研究を認知し、生みだすのに適さないのではないかとの懸念をもたらす」と述べています。とは言え、編集者や査読者は完璧ではないにせよ大方の部分で、科学論文の質を認知して保証するうえで良い判断をくだしたことも記しています。

信頼という概念

同じ分野の専門家からのお墨付きは、その研究が徹底した審査を通過し、科学コミュニティが求める水準に達していることを意味します。このような信頼は研究者だけでなく、政策立案者や教育者、そして情報に基づいて意思決定をするために科学的な知見に頼る一般市民にとっても非常に重要です。

査読プロセスには、評価の客観性と公正性を損なう利害衝突を阻止するための方策も含まれています。査読者は個人的な関係や金銭的な利害など、利害衝突の可能性を開示するよう求められており、これにより偏りのない評価を実現します。このような透明性が査読の全体的な公正性に貢献します。では、査読者が利害衝突の可能性を開示しないとどうなるのでしょうか。

コミュニケーション・フィジクス誌の記事では、査読者自身が、「私たちは科学の進歩に貢献するプロセスの維持に努めており、この公正で価値あるプロセスを支えるうえで著者らが私たちを信頼し、それがかれらの研究上の決定につながることを期待する。同時に、著者と同様、編集者や査読者も人間であるため、バイアスや誤りを避けることはできない」と強調します(2021)。

「スカラリー・キッチン」の記事でアリス・メドウズは、査読の信頼性を高めるためには透明性が重要で、それは完全にオープンな研究インフラを構築することによって実現できると主張します。続けてメドウズは「査読を完全にオープンにする必要はなく、査読報告書(査読者の署名付き、あるいは署名なしのもの)を公開したり、査読者選定やその他の部分で透明性を向上したりすることを意味する。しっかりと支えられた盤石な研究インフラも査読プロセスの効率性を高める」と述べています。

AIが査読の公正性に与える影響とは

学術出版の公正性に対する最新の課題の一つは、生成AIがもたらしました。生成AIの登場により研究をとりまく状況が一変し、影響力の大きい学術コンテンツの信頼性がおびやかされています。2023年にネイチャー誌で報告された注目すべき事例では、公表された論文にChatGPTの回答をコピー&ペーストした箇所が意図せず含まれていることを観察眼の鋭い読者が発見しました。驚くべきことに、この不正行為が査読中に気づかれることはなく、用心深い読者によって初めて明るみに出たのです。研究者のデビッド・ビムラーは、論文でAIが使われたことを示すヒントは微妙な場合もあるため、多くの査読者はそれを発見する時間がないものだとの見解を示しています

また別の事例として、英国のプリマス・マージョン大学(PMU)の教授がChatGPTのみで作成した研究論文を意図的に査読に提出したものがあります。その目的は、AI生成コンテンツが査読での綿密な審査に通過できるかどうかを確かめることで、著者らも驚いたことに、実際に通過したのです。その論文の筆頭著者で、PMUの学術実践のディレクターを務めるデビー・コットンは、ガーディアン誌にて「(ChatGPTの)進化は非常に速く、大学がこれを追い抜くのは難しくなるだろう」と懸念を示しました。AIライティング技術の進歩の速さは、教員や試験監督、査読者など多くの人々にとって大きな試練となります。人間が書いた論文とアルゴリズムが生成した論文を見分けるのに必要な能力は高度になるばかりで、研究コミュニティが300年以上にわたって頼ってきた査読というプロセスの信頼性が急速に損なわれつつあります。

この増大する問題に対処するために、研究コミュニティの多くの人が、AIライティング検知に関心を向けています。AIライティング検知はそれ自体がAIの一種で、AI生成コンテンツであることを示すパターンや言語的なニュアンス、その他の指標を特定するように設計されています。このような検知モデルは、学術出版物においてAI生成テキストが意図せず、あるいは故意に含まれることに対する予防策として期待されています。このモデルを査読プロセスに導入することで、査読システムを強化して急速に発達するAI技術がもたらす課題に対処し、厳格な学術的精査という長年の伝統を守ることができるかもしれません。

AIはリスクもありますが、研究環境にAIが導入されたことで、その活用の可能性も広がっています。人口知能は査読にも急速に影響を与え始めており、論文のスクリーニング、盗用・剽窃検知、引用・出典の確認、文章形式やガイドライン順守の初期チェックを助ける自動化ツールが活用されています。そのような効率化により、査読者は研究の重要な側面にもっと集中できるようになり、最終的には査読にかかる時間を全体的に短縮することができます。

一方で、AIの限界に関する疑問もあります。シュルツらは自動化システムへの過度な依存を避けることが大切であるとして、「投稿論文のジャーナルへの適合性と全体的な品質を評価するうえで編集者と査読者は必要不可欠である……自動化されたスクリーニングツールは査読の代替にはなり得ないが、著者や査読者、編集者が科学論文をより良くするのに役立つかもしれない」と述べています(2022)。

当然ながら、技術の進歩と人間ならでは能力のバランスをとることが、研究はもちろん、査読においても公正性を保持するために重要です。

まとめ:研究における査読の役割について

科学研究の世界では査読は研究公正を守る役割を果たしており、私たちの思考の基となる知識の質を保証します。プロセスの自動化やAIライティングなど、AIの台頭によってもたらされた課題が、AIに適応する必要性についての議論を巻き起こしています。AIには効率化により研究の質を高める可能性がある一方で、厳格な水準を維持するためにAIをどう活用していくかについてはまだ課題が残ります。AIと人間がうまく共存する未来に向けて、査読がどうあるべきかを考えていくことが大切でしょう。

新たな手法の採用とテクノロジーの活用、そして透明性の向上が、進化する査読の基礎的な構成要素となります。これを実現するには、査読者と編集者、著者が互いに協力し、科学研究コミュニティにおける最高の倫理基準を満たすことを目指して、信頼の文化を育む強力な枠組みを築いていくしかありません。

iThenticateで研究公正の文化を築く