昨今、AIの不正利用が世界中の教員の関心事となっています。AIライティングツールの授業への影響は場所や時期にかかわらず、世界中の教員が直面している課題だと思います。
現在のAIの進化には良い面も悪い面も両方あります。授業でAIライティングツールが使えるようになるという考えは、まだ比較的新しいことであるため、恐怖も好奇心も引き起こすでしょう。どちらの感情をもつにせよ、教員がそれに対応することが重要です。それは、AIが不正利用される可能性があるからというだけでなく、教員の指導の有無に関わらず、これらのツールをどこかの時点で使おうとする学生が現れるからです。AIを無視していると学生の成長を阻害するかもしれません。教員が率先して行動することが重要なのです。
とは言え、新年度や新学期の始まりかどうかに関わらず、授業のためにすべきことは膨大にあります。作業の優先順位をつけてすべての仕事を完了するだけでも重労働です。理想としては、AIに関する組織的な方針がすべて決定したうえで個々の教員が新学期の準備を始められることです。そうすれば、教員はAIライティングツールの活用あるいは不正利用の方針に沿って自分の授業の学習課題を調整すればいいだけです(本当に?)。しかし、授業内で学生に課す多くの学習課題を考えると、それは大変な作業になるでしょう。
AI時代の適切なライティング実践は、AIライティングツール以前の実践方法とほとんど変わりません。
本記事ではライティング実践の良い例を紹介するだけでなく、AIの不正利用が学生の学びに及ぼす影響と、AIツールを適切かつ効果的に活用する方法を学生に教えるためのヒントも探ります。
AIライティングツールの不正利用が学習に及ぼす影響とは?
これは非常に重要な問いで、よく考える必要があります。そもそも、唯一の簡単な解答はありません。AIの不正利用がどのようなものであるかは、学習課題ごと、授業ごと、教員ごとに異なるでしょう。しかし議論の出発点として、何らかの決断をくだす前に考えるべき問いです。
この問いをもっと具体的にすると、「この課題、この授業、この教員にとって、AIの不正利用が学習に及ぼす影響は?」という問いになります。
これは、AIがどのように機能するのかが答えに影響します。教員は長年、さまざまな形態の学術不正に取り組んできましたが、AIライティングツールの不正利用は学術不正の中でも最新の課題です。これまでとは異なる形態のように感じますが、多くの点において似ているものです。AIの不正利用は学習の公正性を毀損します。これは、教員が果たすべき責任と対極にあるものです。
成果物を完成させるためにAIを活用することが「間違っている」「悪い」と言っているのではありません。特定の実践に従って、学習に悪影響を与えない方法でAIを活用することも可能です。重要なことは、学生が課題で独自の思考力を発揮するには、その成果物が自分たちの手によるものでなくてはならないということです。
授業での適切なライティング実践とは?
再度、私の主張を繰り返します。AI時代の適切なライティング実践は、AIライティングツール以前の実践方法とほとんど変わりません。どうすればAIの活用が不正利用になりうるかを批判的に見据えた上で、授業において適切なライティング実践を展開することが、授業の中でアカデミック・インテグリティの文化を築くための第一歩です。
授業では次の5つの実践を推奨します。
1.個々の学生の基本的な文章スタイルをつかむために、学期の始めに(できれば一人で)レポートを書かせる。
もしかしたら、これは多くの授業ですでに実践されているかもしれません。どれだけ若くても、学生は明確な文章スタイルをもっています。物語を書くときや何かを主張するときの単語や句読点の使い方には独自性があります。もしAI不正利用の疑いが出たとき、この文章サンプルが客観的な比較対象になるでしょう。
この実践を通して教員は授業の最初にライティングの重要性を強調できるだけでなく、学期を通じて、効果的な序章・結論の書き方、推敲の仕方、主張を裏付ける方法など、特定のスキルの指導に文章サンプルを活用することができます。この最初に書いた文章を何度も活用して、他の課題や成績に関わる重要な課題を完成させるのに必要なスキルを指導しましょう。
2.学生に複数の下書き原稿を保存させる。
この2つ目のポイントは1つ目の実践と相性がよく、また、学生を次の3つ目の実践へとスムーズに移行させる役に立ちます。さまざまな下書き原稿を保存させる価値は計り知れません。学期の終わりには原稿が詰め込まれた不格好なファイルができあがるかもしれませんが、それは学生の成長の記録でもあります。AI不正利用の疑いが出たときに、教員と学生の双方に役立つでしょう。最初のライティング課題から、複数の下書きを保存する習慣を身につけることが大切です。習慣化には日常的な繰り返しが欠かせません。下書きを保存する習慣が身についていれば、学生は教員との面談で下書きを見せるよう要求されても不安に感じることがないでしょう。
3.文章修正のバージョン記録をとらせる。
私は若い学生時代、「初稿」と「最終稿」が重要だと思っており、自分の執筆プロセスに従っていること教員に示すために、忠実に実践していました。しかし、先生はそれだけでは納得せず、自分自身も納得していませんでした。文章修正のバージョン記録をとると、アイデア出しから草稿、そして推敲の過程における学生の成長を記録することができます。それぞれの段階での文章は、AIの不正利用が疑われる場合に証拠として役に立つだけでなく、学生と教員の双方が、課題の目的を達成するためにどのような修正をなぜ加えたのか判断することができます。もし修正しても文章が改善しないのであれば、さらなる指導や修正のための話し合いの場をもち、学習の機会をつくる必要があります。
4.途中で個人面談を設定する。
個人面談は学生にとっても教員にとっても時間と労力を要するものです。しかし、学生のライティングの改善のために、教員が学生といっしょに草稿を見直し、形成的なフィードバックを与える機会を定期的に設けることが重要です。学生が自分のレポートを完成させ、完璧だと思いこむ前に、教員の指導により方向性を再考させる機会になります。また、肯定的なフィードバックの価値はいくら強調してもしすぎることはないでしょう。加えて、執筆中の原稿をチェックするということは、教員が最終的な成果物を読むときには下書き原稿を少なくとも1回以上読んでいることを意味するため、教員は最終成果物だけでなく、その学生の全体的な成長も考慮することができます。下書きを事前に読むことで最終成果物の内容を知っていると、成績付けの時間も短縮できるかもしれません。
学生にとっても、形成的評価を受け取る価値は絶大です。また、フィードバックと修正のための時間があらかじめ設定されていると、AIの不正利用が疑われる場合に文章の修正履歴を視覚化することができます。文章を修正したり、自分のライティングの変化や成長を認めたりすることは、短絡的なAIの不正利用を避けるうえで重要です。
5.文章スタイルの不一致を探す。
この実践は他の4つのポイントから少しずれているように感じるかもしれませんが、これを含めたのには理由があります。「この文章はどこかおかしい」という教員の違和感は、学生によるAIの不正利用を阻止します。例えば、単語の選択(あるいは妙にこなれた表現など)が当該学生のこれまでの提出物や発言と矛盾するなら、それは不正行為の予兆となります。盗用・剽窃の明らかな証拠ではありませんが、もっと慎重に読んだり、時間をかけてサンプル文章と比較したりする必要があることが分かるでしょう。学生が意図的に盗用・剽窃を試みた場合もあれば、単に適切な引用の仕方を知らなかっただけという場合もあります。
その学生と話し合えば、状況がさらにはっきりするかもしれません。この実践をライティングのための定期的な個人面談に組み込むと、AIの不正利用に関する重要な会話をする際におおいに役立つでしょう。
授業でAIの不正利用が心配されるなか、適切なライティング実践を行う価値とは?
ここまで読んで、経験豊かな教員は「とくに目新しいことはないな」と思うかもしれません。実際のところ、アカデミック・インテグリティに対する脅威と闘うための効果的な指導法は、とりたてて革新的なものではありません。私の以前の指導教官は、現職教員を対象としたライティング指導の勉強会の冒頭で「ライティング課題を出すことはライティング指導ではない」とよく言っていました。これは、AIの不正利用の脅威に対抗するうえでも同じです。学生は、単に書くことを要求されるだけでなく、上手く書く方法を教わる権利があります。ライティング指導専門の教員には当然の考え方ですが、ライティング指導を専門としていなくても、すべての教員がライティングを教える機会があるでしょうから、これを胸に刻んでおくことが大切です。
適切なライティング実践にはつねに時間がかかるものです。どれだけ重要かは、授業内でそのためにどれだけの時間を費やしたかによって測られますが、限られた時間のなかでやるべきことが多すぎるのが現状です。単純に、すべての課題について毎回「AI不正利用対策」を実施する時間やリソースが不足しています。そのため、適切なライティング実践を強調することで、学生は「手っ取り早い解決策」としてのAIライティングツールに惹かれることなく、真のライティング力を身につけることができるでしょう。
授業でAIラティングツールの活用をどう教えるか?
学校教育におけるAIライティングツールの使用は本質的に新しい試みですが、その使用法すべてが新しいというわけではありません。本記事で提案した5つの実践ポイントは、もしまだ授業で実践していなくても、取り入れるのが非常に簡単です。学生に上手な書き方を教えることは、AIライティングツールの不正利用に対するもっとも良い防御策の1つです。しかし、どれだけ意図的に指導を行ったとしても、どこかの時点で学生がAI不正利用の一線を越える可能性があることは、教員にとって無視できない事実です。アカデミック・インテグリティにのっとってAIライティングツールを正しく活用する方法を教えることも、効果的なライティング指導の範囲内です。もちろん、AIライティングツールは独創性や批判的思考、独自の文章の替わりにはならないため注意が必要です。とは言え、教員が限度を意識していれば、実際に有効活用できます。学生がAIツールを効果的に活用し、不正利用しないようにするために、まずは教員自身がその機能を知っておく必要があります。教員はあらゆることの専門家であるよう求められますが、その一つの要因としては、教員が自ら調査し、その結果を自分のものにする方法を知っているから期待されるといえます。
AIライティングツールについての理解を深めて初めて、目標達成のためにそのツールを活用するベストなタイミングを判断することができます。アイデア出しのための比較的シンプルな活用法を練習するにせよ、文章の推敲や内容に関してAIへ相談するといった比較的高度な活用法を練習するにせよ、倫理的な活用と人間ならではのライティングスキルを強調する必要があります。
まとめ:AI時代の適切なライティング実践は、AIライティングツール以前の実践方法とほとんど変わりません
本記事のなかでこの言葉を繰り返すのは、それだけ重要だからです。唯一の「改善策」を探すのではなく、AIライティングツールに関しては、幾つものピースがあるパズルとして捉えてみましょう。前述した5つの実践ポイントは、学生のライティングに直接的に良い影響をもたらす1つの参考にすぎません。ここでもう一度まとめます。
1. 個々の学生の基本的な文章スタイルをつかむために、学期の始めに(できれば一人で)レポートを書かせる。
2.学生に複数の下書き原稿を保存させる。
3.文章修正のバージョン記録をとらせる。
4.途中で個人面談を設定する。
5.文章スタイルの不一致を探す。
パズルのもう1つのピースは、ターンイットインが提供するAIライティング検知ツールです。AIライティング検知ツールができることとできないことを学生と話し合い、学生のライティング学習と結びつけると、効果的な実践を促進することができます。ライティングの個人面談のなかでAIライティング指数とレポートを定期的に活用し、その情報を原稿の見直しおよび書き直しに役立たせると、AIの不正利用を避けられます。最後に、教員も学生も、知識やスキルを向上させるために、AIツールについて学び、積極的に使用して理解していくことが大切です。