これまで教員は、フィードバックが学習に非常に重要であると信じてきました。しかし、 教育におけるフィードバックの実際の効果についての研究は、つい数十年前まではありませんでした。フィードバックとは何か、 どのように教室での学習改善に役立つかは、ジョン・ハッティ博士(メルボルン教育学大学院名誉教授で、Visible Learning Labsを主宰)などの教育学者による研究によって明らかになってきました。
とくに、2007年のハッティ博士とティンパリー博士の論文では、これまでの教育研究を振り返り、「どこへ向かっているのか」 「いま、どこにいるのか」「次にすべきこと」というフィードバックの3タイプを議論しています。これら3つのうち、 どのタイプが学生の小論文の改善に役立つかを明らかにするため、ターンイットインのベテラン教育者たちがジョン・ハッティ博士とともに、 "Feedback That Leads to Improvement in Student Essays: Testing the Hypothesis that ‘Where to Next’ Feedback is Most Powerful." (学生の小論文の改善につながるフィードバック:「次にすべきこと」を示唆するフィードバックが最も効果的であることを検証する) と題する研究論文を2021年に発表しました。
その研究では、Turnitin Feedback Studioに提出された高校と大学の小論文3,204件のデータを分析しました。 それらのデータは、一度提出され、フィードバックを受けて最終成績のために再提出されたものを匿名化したものです。主な研究成果として、 「次にすべきこと」を示唆するフィードバックの重要性が裏付けられ、 そのタイプのフィードバックが小論文の書き直しに最も効果があると実証したことがあげられます。 フィードバックの内容が一般的か具体的かに関わらず、学生は「次にすべきこと」を示唆するフィードバックに最も影響を受けたようです。さらに、 学生はオンラインツールを介して教員からフィードバックをもらいましたが、どの学生も受け取ったフィードバックをきちんと理解し、 小論文の書き直しに生かすことができていました。
教員は学生の成長を促すために、フィードバックに無数の時間を費やします。「次にすべきこと」を示唆するフィードバックは、 学生が学習目標を達成するために次はどのようなステップを踏み出せばよいか理解するのに役立ちます。 そのようなフィードバックが学生の成長に最も効果的であることが証明されているなら、その効果を有効活用しない手はありません。 学生が次の小論文に取り組むとき、このタイプのフィードバックを重点的に取り入れてみるのはいかがでしょう?
「次にすべきこと」を示唆するフィードバックを、学生の成長のために最大限活用するには、 それを形成的かつ以下のガイドラインに沿って実施することが重要です。
「次にすべきこと」を示唆するフィードバックは、学習の進行に合わせて実施されなくてはなりません。学生に学習改善の機会を与え、 学習目標に到達できるようサポートしましょう。学生が小論文を提出する前に、 少なくとも1回はフィードバックを受けて書き直す機会を与えましょう。もし可能であれば、 フィードバックと書き直しの機会を複数回設けてください。行動にうつせるフィードバックと書き直しの機会を与えることで、 学生はフィードバックに基づいて文章を書き直すようになります。
前述の研究(Hattie et al., 2021)でも示されているように、「次にすべきこと」 を示唆するフィードバックを書く際には、「どこへ向かっているのか」(学習目標)と「いま、どこにいるのか」(目標へ向けての学習状況) も取り入れるべきです。
フィードバックコメントに含むべき重要な要素として、次の3つを提案します。
1.問題点:当該課題に関連する具体的な問題点を詳細に明示する
2.関連性:課題で求められる期待値(ルーブリックなど)とフィードバックを明確に関連づける
3.行動:答えを教えるのではなく、学びを適切に方向づける「次のステップ」を示す
これらの要素は、ここに示された順番通りでなくても、また、複数の要素をひとつにまとめてもかまいません。
フィードバックをさらに効果的にするために
課題で求められる期待値はルーブリックを使って明示することができます。フィードバックに対する学生の理解力を高めるために、 ルーブリックを作成し、課題について説明するときに学生とそのルーブリックを共有しましょう。良いルーブリックは、 評価対象となる課題の多様な特性や観点について、さまざまなレベルで期待値を詳細に記しています。「次にすべきこと」 を示唆するフィードバックを、ルーブリックの目標達成基準に関連づけるようにすれば、学生は「どこに向かっているのか」を知ることができます。
Feedback Studioでは、既存のルーブリックを活用したり、作り替えたり、新たに作成することができます。
「次にすべきこと」を示唆するフィードバックへの理解度を高めるために、 そのフィードバックがルーブリックのどこに位置するかを示しましょう。学生は成功のための基準を理解し、次に必要な行動を実行しやすくなります。
効果的なフィードバックを行うには、膨大な時間とエネルギーが必要です。研究により、Feedback Studioのようなオンラインツールを介して実施された「次にすべきこと」を示唆するフィードバックにより、 学生は成長のために必要な行動を明確に理解しやすくなります。その結果、長期にわたって学習成果を高めることが示されています。 フィードバックをより効果的にするために、「次にすべきこと」の示唆を積極的に取り入れていきましょう。
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引用文献
Hattie, J., Crivelli, J., Van Gompel, K., West-Smith, P., & Wike, K. (2021, May). Feedback That Leads to Improvement in Student Essays: Testing the Hypothesis that “Where to Next” Feedback is Most Powerful(学生の小論文の改善につながるフィードバック:「次にすべきこと」 を示唆するフィードバックが最も効果的であることを検証する). In Frontiers in Education (Vol. 6, p. 182). Frontiers.
Hattie, J., and Timperley, H. (2007). The Power of Feedback (フィードバックの威力). Review of Education Research. 77 (1), 81– 112. doi:10.3102/003465430298487
Turnitin (2022). The powerful direction of “Where to next?” feedback(「次にすべきこと」を示唆するフィードバックの強力な指導力). Turnitin, LLC. https://www.turnitin.com/resources/where-to-next-feedback (参照2022-2-28)