ChatGPTによる文章生成は、アカデミック・インテグリティ(学問における誠実性・公平性・一貫性) に大きな影響を及ぼす可能性があることから、教育と学習の分野で注目の話題となっています。教員は、 ChatGPTとAIによる文章生成を授業のカリキュラムに取り入れるべきなのでしょうか?それとも、 AIによる文章生成を全面的に禁止して遠ざけておくべきなのでしょうか?
本稿では、前後編に分けて、ChatGPTの不正利用や学習に関する懸念点だけでなく、 ChatGPTがもたらすポジティブな点についても考察していきます。後編では、ChatGPTによる文章生成が学習に与える影響について、 ChatGPTによる回答と人が思考して書いた回答を比較しながら、AIによる文章生成とアカデミック・ インテグリティについて学生とどのように話し合えばよいのかについてご紹介します。
AIライティングツールの使用が許される状況にあったとしても、ChatGPT頼みとなれば、学習が手抜きとなるおそれがあります。
ChatGPTの不正使用のデメリットを強調する方法として、 学生との議論の際にするのと同じ質問をChatGPTにもしてみるという手があります。この方法により、学生の議論の方が、 使用法の良し悪しを細部にわたって検討しており、詳細で包括的であったことを示すことができます。そこで、 試しにChatGPTを使用して学習への影響についてChatGPTに質問してみました。
以下、ChatGPTの回答を示します。
質問:ChatGPTによる文章生成が学習に与える影響を教えてください。
回答:ChatGPTは言語モデルとして、学習にいくつかの影響を与える可能性があります。
- 情報へのアクセス ChatGPTは膨大な量の知識と情報にアクセスできるため、学習のための貴重なツールとなります。 ChatGPTは質問に対して迅速かつ正確な回答を提供することができ、ユーザーが幅広いテーマに関して知識を得るのに役立ちます。
- 学習支援 ChatGPTは学習補助者として機能し、解説、模範解答、疑問点の解消を行います。 ユーザーが複雑なコンセプトを理解し、問題を解決できるよう補助し、学習行程に沿って勉強できるよう導くことができます。
- 個別化された学習 ChatGPTは個々の学習者のニーズや好みに合わせることができます。 ユーザーの個別の要望に応じたアドバイス、リソース、学習教材を提供し、学習体験をより個別化され、効果の高いものにします。
- 外国語の習得 ChatGPTは会話に積極的に参加し、外国語の習得の機会を提供することができます。 ユーザーはChatGPTとの対話を通じて、各自の学習言語の使い方に関するフィードバックを受けることで、ライティング、スピーキング、 コミュニケーションスキルを向上させることができます。
- 創造的探求 ChatGPTの文章生成能は、創造性を刺激し、探求意欲を高めます。ユーザーはアイデアを出し合い、 可能性について議論し、アドバイスを受けることで、より革新的でオープンマインドな学習姿勢を育むことができます。
- コラボレーションとピアラーニング ChatGPTは学習者同士のコラボレーションを促進します。 複数のユーザーが同時にChatGPTと対話することで、アイデアを交換し、コンセプトについて議論し、 互いに学び合うことができる共有学習環境を作ることができます。
- 継続的な学習 ChatGPTは継続的に情報を新しいものに更新できるため、学習者は最新の知識を得ることができます。 新たな動向、進歩、発見に対応できるので、最新の知見や開発状況をユーザーに提供することができます。
ChatGPTは貴重な学習ツールとなり得ますが、 従来の学習方法や人間の教員に取って代わるものではないことに注意する必要があります。 ChatGPTの有効性を生かせるかどうかは活用方法次第であり、充実した学習体験を実現するには、 他の学習リソースや学習戦略と組み合わせて使用する必要があります。
ChatGPTの自己宣伝になっていることは言うまでもなく、曖昧で初歩的な言語表現や具体例の欠如に注目してください。 内容に批判が伴わず自画自賛的であるだけでなく、学習や学生を中心に置いた回答になっていません。さらに、ChatGPTが「最新の知識」 にアクセスできるという主張には疑問が残ります。様々な情報源によると、 ChatGPTは2021年までの情報にしかアクセスできないとのことです(2023年現在)。 マイクロソフトが2023年3月下旬の時点でBingをChatGPTに統合しましたが、それでも発展途上の段階にあります。
上記のChatGPTが生成した文章は、書き直しが必須です。
以下、同じテーマについて人間(私)が書いた回答をご紹介します。
ChatGPTが学習に与える影響学生の知識
ChatGPTは、主にインターネットを介して多くの情報源にアクセスすることができ、幅広く回答を提供できる可能性があります。しかし、 ChatGPTは人間の入力やリソースに依存しているため、欠陥のあるおそれがあり、それゆえに誤った情報を提供しかねません。 学生がChatGPTやAIライティングに全面的に依存してしまうと、教育目的に反する誤った情報を手にすることになりかねません。
ChatGPTはデータセットの平均値や中央値に依存しており、もしそのデータに偏りがあれば、出力された情報は事実に基づくものではなく、 人々の意見に基づくものになるということを知っておくことが肝要です。
neaTodayによると、ChatGPTの公式ウェブサイトでは、次のように述べられています。「ChatGPTは時折、 誤った情報や時宜を得ない、偏った回答を生成することがある。ChatGPTは、収集され、訓練された情報と同じ知識しか持ってない。 作成者でさえ、このプログラムは事実に基づいた信頼できる情報源ではなく、学術的な情報源として扱うべきではないと認めている。多くの教員は、 ChatGPTが授業や学習(特にライティング課題)をより『型通り』のものにするのではないかと心配している」(Blose, 2023)。
初学者のための足場特に新しい言語を学んでいる学生に対して、ChatGPTは新しい言語で文章を書くための足場を提供することができます。 AIライティングツールは、学生が言語の壁を越えて自分の考えを表現するのに役立ちます。但し、この足場を学習の代わりにしてはなりません。 なぜなら、学生は最終的に、ライティングのすべての要素について、たとえ深く理解することはできなくても、意識的に学ぶ必要があるからです。
ブレインストーミング(集団でアイデアを出し合う方法)ChatGPTはブレインストーミングに役立つかもしれません。しかし、そのアウトプットには限界があり、学生自身が分析し、 オリジナルなアイデアを生み出す必要があります。さらに、ChatGPTは高度な処理能力を持っていますが、文脈を読み間違えることがあり、 それは間違ったアウトプットにつながります。この場合も、アウトプットが正しいかどうか、 新しい知見を提供しているかどうかを見極めるのはユーザーなのです。とはいえ、ChatGPTは議論を構造化することに長けており、 学生が自説を構築するのに役立ちます。
常時利用可能で、個人に合わせた学習が可能ChatGPTは常時利用可能です。一方、教員はいつでも応対できるわけではありません。学生が質問をした場合、 ChatGPTはどんな時間帯でも情報源となります。さらに、学生は自分の興味に応じて質問を設定することができ、 ChatGPTはそれに応じてさらに詳しく調べて回答することができます。アウトプットがざっくりとしたものであっても、学生が「良い質問」 の仕方を考え、異なる視点で思考を微調整するのに役立ちます。
テクノロジーへの依存学生はテクノロジーに依存するおそれがあり、学習過程の重要な段階を「省略」してしまうことがあります。電卓を例にとると、 電卓の関数機能を使えるようになるには、学生が自分で足し算や引き算ができるようになっておく必要があります。要するに、 電卓は知識の代わりとなるものではなく、補助に過ぎないのです。つまり、ChatGPTは足場を提供することはできますが、 学習に取って代わるものではないということです。
クリティカル・シンキング(批判的思考力)クリティカル・シンキングを習得することは重要な学習到達目標です。 AIライティングツールやChatGPTによる文章生成の不正使用が拡がると、学生は自分の頭で考えることができなくなるかもしれません。 この懸念は深刻です。Brookings Institutionはこの問題を取り上げ、「しかしながら問題の本質は、 このボットが批判的思考よりも組み合わせる能力に長けているということにある。複数の事柄を比較する小論文には適しているが、 独創的な論文を作成し、それを弁証する能力は低い」と付け加えています(Hirsh-Pasek & Blinkoff, 2023)
独創的な思考と学生の表現力ChatGPTは小論文を丸ごと生成できるため、学生がAIライティングツールを使用したことを開示せず、 ChatGPTが生成した文章に全面的な修正を加えもしない場合には、独創的な思考の欠如という問題だけでなく、 学術不正や不正行為といった問題も生じます。これはChatGPTに関する最大の懸念事項の一つであり、 AIライティング検知ツールの開発が進められている理由でもあります。文章を書く練習をしなければ、学生は書き手としての表現力を磨き、文章を書く自信を身につける機会がなくなります。「安心して失敗できる」場を提供することは重要であり、 AIライティングの不正使用を減らすことにもつながります。さらに、ChatGPTの生成した文章は、魅力が乏しく、 多くの点で曖昧で受動的です。学生が学ぶべき最適なモデルにはなり得ません。
ChatGPTが時短の手段として使用されると、様々な理由から学生の学習成果に悪影響を及ぼすおそれがあります。 学生は間違った事実を学んでしまうかも知れませんし、ChatGPTに依存すれば、 独創的で批判的な思考の習得に進めなくなくなるおそれがあります。しかし、正しく使えば、 電卓のようなツールのように学生の学習を補助することができます。
AIライティングツールをすべての学習に有効で包括的な手段として推奨せずに、 ChatGPTの良い影響を学生に伝えるにはどうしたら良いのでしょうか?
学生は、ChatGPTによる文章生成が今後も必要となること、そして学業を終えた後、 職場で使うことを求められる可能性が高いスキルであることを理解しています。AIライティングの好ましい使い方については、 その良し悪しを細部にわたって強調することで、AIライティングが学習にどのように役立つかを学生が理解しやすくなります (同時に不正行為を避けることもできます)。
今日の学生は、教員と同時にChatGPTの公開を経験したという点で特殊な状況に置かれていると言えます。 評価対象としての小論文の存在意義や学生の教育方法全体がChatGPTによって大きく損なわれると感じている教員もいました。その結果、 AIライティングツールを全面的に禁止する学区が現れるなど、教育界が初期に陥ったパニックを学生は目の当たりにすることになりました。 Redditでは、このパニックを揶揄して、 ChatGPTのせいでタイプライターが文章作成手段として復活するだろうと冗談めかして投稿した人がいました(Fonky_Fesh, 2022)。
しかし、その数カ月後には教育関係者はAIライティングツールが学業にもたらす影響を再評価することになります。学生たちもまた、 この議論に加わることができるという点でも特殊な状況にあります。
AIライティングツールは、以前考えられていたほど教育をむしばんではいませんが、評価法をより熟考されたものにするでしょう。Insiderの記事によると、リーズ大学の講師であるリア・ヘンリクソン博士は、 「人工知能を注意深く使えば、教育がより公平になるかもしれないと思う」と言っています。ヘンリクソン博士は、リーズ大学も 「人工知能の台頭に対応して、評価法の修正を検討している。 ChatGPTのようなチャットボットが簡単に複製できるような単純な情報を蓄積することよりも、人間のスキルである批判的分析と判断 (原文のまま)に重点を置きたいと考えている」と述べています(Stacey, 2023)。
教育の目標は、学生がコンセプトを理解し、独創的な発想ができるようになることで、 それによってグローバルなアイデア交換の場への参加が可能となります。もし評価が知識の奥深さを測る方向に向かうなら、私たちは皆、 より良い状況を手に入れられます。
ニューヨーク・タイムズによると、ある学生は次のように述べています。「私の学校のある教員は最近、 授業で読んでいる小説についてChatGPTを使って論文を書くようクラスに求めました。学生も自分で論文を書き、その結果を比較しました。 この教え方は、非常に親しみやすく、生産的だと思いました。ChatGPTをカンニングの手段と決めつけ、 学生に禁止されているプログラムをこっそり使うように促すのではなく、学生自身の独自の考えを保ちながら、 上手に利用する方法を教員は教えることができるのです。今の世の中、テクノロジーは急速に知能化していますが、 それを恐れる必要はないと思います」(Devin)。
授業でAIライティングツールの適切な使い方を見本として示すことで、 学生はChatGPTのようなツールの最適な使い方を学ぶことができます。
ChatGPTは、ライティング過程をより可視化する機会をもたらします。例えば、 学生がChatGPTによる生成文章を批評する手段として用いることで、レビュースキルを磨くことができます。 ChatGPTで作成した初稿を学生に推敲させれば、学生は推敲過程に直接触れることができ、推敲の秘訣を理解できるようになります。
ミシシッピ大学の指導者兼教育開発者であるエミリー・ドナホー氏は、「ChatGPTは、 教員が最終結果を重視しすぎることから脱却するのに役立つ可能性がある」と述べ、現在では「学生にChatGPTを使って議論を引き起こさせ、 それが特定の参加者にどの程度効果的であったかに応じて注釈をつけさせた。それからその批評に基づいて書き直させたものを提出させた」(Heaven, 2023)。
ChatGPTを使ってライティングのインサイトを深めることで、AIライティングツールの最適な使い方を学生に伝えることができます。
ChatGPTには課題を学生の母国語に翻訳する機能があるため、外国語学習者をサポートすることができます。ChatGPTに 「この文章を韓国語に翻訳して」と指示するだけで、教員は学習格差を縮めることができます(Blose, 2023)。
さらに、ChatGPTは積極的に会話に参加するため、学習者はChatGPTと会話しながら文法や構文の演習ができるだけでなく、 外国語の習熟度を高めるためのフィードバックを受けることもできます。マイケル・キングはMediumの投稿の中で、 「ドイツ語の家庭教師としてChatGPTを試用し始めたところ、ChatGPTが単なる情報源以上のものであることにすぐに気づいた。 ChatGPTはその独特な機能により、私が学んだスキルを効果的にチェックすることができ、改善のための提案もしてくれるので、 真のゲームチェンジャーとなった」。
ChatGPTが外国語の学習に与える影響として、瞬時のフィードバック、個別化された学習、ターゲット言語への接触機会の増加など、 他にも多くの利点が挙げられます(Cai, 2023)。ChatGPTを実践的な学習ツールとして使用することで、 学生はその利点を理解すると同時に、その弊害についても認識することができます。
学生はAIライティングツールの実態を知っている状態で授業に臨んでいます。 多くの学生はAIライティングが不正に使用されるおそれがあることを理解しているとはいえ、 ChatGPTのようなツールの適切な使用と不適切な使用の違いを定義することが重要です。学習と、 ChatGPTが学生の知識習得にどのように役立つのか、あるいは阻害するのかについて議論することで、AIライティングツールとアカデミック・ インテグリティの接点を浮き彫りにすることができます。
学生は新しいAIライティングツールの使い方を知っています。その上で学生が学ぶ必要があるのは、 なぜChatGPTが成績の低下をもたらすおそれがあるのかということです。学生に必要なのは、学業や教員の目標と歩調を合わせることです。 AIライティングツールの使用に関するグレーゾーンを明確にするために、その使い方の良し悪しを細部にわたって綿密に議論することが必要です。 例えば、プロのライターがChatGPTを使うことはありますが、学生はまだ学習中の身であり、 たとえ最初の下書きにChatGPTを使用することがあったとしても、自分でオリジナルな文章を生み出す必要があるのです。
また、教育のあり方も進化しています。学生は今、歴史上極めて重要な局面に立たされており、 議論の場に参加する特権が与えられていることを知るべきです。そしてそれは、知識の評価方法を含め、未来を変えようとしているのです。
アメリカのブルッキングス研究所は、「ChatGPTが脅威となるのは、私たちの教育システムが『知識ではなくルーブリック・ポイントを追求』 し続ける場合だけだ」とアダム・スティーブンスの言葉を引用しています。すべての教員にとって同僚の例に倣うことが重要となってしまっています。 教員が情報を提供し、後で要約させて反復させるという古い教育モデルでは、教室や将来の職場で学生を成功に導くことはできません。 このモデルを安らかな終焉に向かわせなくてはなりません。正しい使い方をすれば、ChatGPTは脅威の対象ではなくなり、授業の友となり、 学生にとってこのうえなく素晴らしいツールとなりうるのです(Hirsh-Pasek & Blinkoff, Brookings Institute, 2023)。