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研究不正の影響を探る 〜K大学の博士号取り消し〜 | ターンイットイン

The Turnitin Team
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Amanda De Amics
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2021年5月25日、国内のK大学がその124年の歴史上初めて、研究不正による博士号取り消しの措置を決定しました。 通報を受けた大学が2012年に受理された博士論文を調査した結果、盗用・剽窃が含まれることが明らかになったのです。

K大学の公式発表によると、当時大学院生であったK氏が提出した博士論文には、出典を明記しない引用9カ所のほか、他者のアイデアの盗用・ 剽窃など、11点の不正が確認されました。

不正が発覚したとき、K氏は中国S大学で講師の職に就いていましたが、 博士号取り消しのニュースが報じられると大学は当該講師の解雇を決定しました。研究上の誤った判断が広範囲に影響を及ぼしたのです。

その一月前の4月には、T大学が2019年に提出され博士論文について、実験に用いた細胞株に、 元々染色体が不安定な株が混入していたとして、博士号の取り消しを発表しました。

日本で立て続けに起こったこれらの研究不正の事例は、どの研究・教育機関にとっても人ごとではありません。盗用・ 剽窃を中心とした研究不正がどのように起こるのか、それをどのように解決するのか、見ていきましょう。

研究不正はどれくらい広まっているのか

問題の重大さをつかむために、最初に研究不正の定義を確認しましょう。世界保健機関(WHO)は、研究不正とは「意図的、故意または無謀な不正行為を指し、ねつ造、 改ざん、盗用・剽窃、虚偽など、責任のある研究のための倫理規定に反する行為を含む」と定義しています。 研究倫理についてもっと詳しく知りたい場合は、Turnitinのインフォグラフィック(英語版)をご覧ください。

盗用・剽窃は研究不正のなかでも特に陰湿な行為で、デジタル上の「クリック」ひとつでアイデアの借用ができる「コピー・アンド・ペースト」 文化により急速に広まりつつあります。一般的に出版社は投稿論文に関するデータは公表しませんが、ある大手の学術誌は、23%もの投稿論文を盗用・剽窃が確認されたためにリジェクトしたと報告しています。つまり、 問題は想像以上に大きいのです。

研究不正の事例は他にも数多くあります。2017年には中国のS大学の博士課程の学生とその指導教官が、 それぞれの学位と職位を取り消されました。2人が執筆した論文の少なくとも11点が、自己盗用・自己剽窃、画像操作、 データねつ造などさまざまな不正行為により国際的な学術ジャーナルから撤回されました。

さらに特筆すべき事例は、日本の麻酔専門医U氏の142点もの論文で、 データねつ造や不適切なオーサーシップなどの研究不正が発覚したことです。本人は解雇され、論文の共同執筆者複数名に処分が下されました。

いずれの事例も、研究者の不正行為は早期発見されなければ、その後も繰り返されてしまうことを示しています。

学生(とりわけ大学院生)はなぜ盗用・剽窃を行うのか

このように、不正が発覚すると厳しい結果がもたらされるのに、なぜ学生は、研究基準に反する業績を提出・ 投稿するというリスクを冒すのでしょうか。説明責任と罰則は変わらず必要ですが、学生の動機と、 不正が故意によるものか過失によるものかを見極めることが、学生を適切に指導し、倫理性が保たれた研究文化を支えるうえで重要です。

問題なのは、盗用・剽窃が、自分の考えを資料と組み合わせて提示するアカデミック・ライティングの技術をまだ習得していない 「学部生の問題」として認識されがちなことです。そこで大学院生の盗用・剽窃が発覚すると、教育機関は学生の無知を嘆くのです。しかし、 そこで終わりにしてはいけません。

そもそも、研究不正にはどのような動機が潜んでいるのでしょうか。
米国の研究公正局(ORI)では、研究不正の5つの主要因を示しています。

1.監督不行き届き

2.不十分なトレーニング

3.競争のプレッシャー

4.個人的な事情

5.個人の心理

残念ながら、大学院生のほうが学部生よりも不正が発覚した場合のリスクが高い、という事実だけでは、研究の「近道」となる不正行為 (故意にせよ不注意にせよ)を防げません。個人的な事情がある場合をのぞき、学生を取り巻く研究環境が大きく影響します。

多くの研究・教育機関は、「出版か死か(Publish or Perish)」という、 研究者のキャリアアップのためには研究成果の論文出版が不可欠であることを表す言葉に馴染みがあるでしょう。この言葉は、 個人の研究者だけでなく、学術コミュニティに貢献する人材を生みだす研究・教育機関にも当てはまります。ここで、 学術界における競争の激化について考えてみましょう。Turnitin社の内部調査によると、2030年までに、 世界の研究者の数は2000万人から3000万人にまで増加すると予測されています。問題なのは、 論文出版の機会はそこまで急速に増えることはなく、2030年までに120万本の増加(合計して520万本)しか見込まれないことです。 *

このような激しい出版競争のなかで、倫理規範の限界を試し始める研究者が現われるのも不思議ではありません。 締め切りに追われてストレスや疲労を抱える研究者にとっては、気乗りのしない言い換え行為も、 データねつ造に比べれば比較的無害に思えるかもしれません。近年、日本で起こった博士号の取り消し事案は、今後も続く問題になると推測されます。


研究不正の真の代償

研究不正は、私たちが学術界、ひいては社会全体で大切にする真実と正当性の基盤を揺るがします。当然ながら、研究不正をした研究者は、 個人的・職業的に大きな代償を払うことになります。また、それに関わる他の研究者、研究機関、出版社も、 不正の疑いを調査して問題があれば撤回しなければならず、大きな影響を受けます。

研究不正の代償は、大きくは次のとおり分類されます。(出典:iThenticate

  1. 個人的な代償:研究不正が発覚した研究者は、評判に傷がつき、将来の雇用機会が奪われるだけでなく、学位や地位の剥奪、 所属機関からの除名といった処分を受ける可能性があります。

  2. 経済的な代償:不正行為の重大性によっては訴訟に発展し、関係者全員に多額の費用が求められる可能性があります。

  3. ブランド・評判の代償:研究不正が発覚した研究者が所属する大学は、ネガティブな風評がたって信頼が失墜し、 過失の疑いももたれます。さらには、入学希望者数の低下にもつながりかねません。

  4. 社会的な代償:医療や公共インフラに関わる研究でデータの改ざんが発覚した場合、社会全体に影響が及びます。


K大学のケースでは、K氏の論文は査読プロセスにおけるなんらかの見落としにより不正の発覚を免れたと考えられます。しかし、 この事例から得られる教訓は、不正行為は最終的には発覚し、長期間にわたる調査と学位剥奪の末、解雇にいたるということです。

さらに、大学側が受ける影響も広範囲に及び、K大学は、学内の研究と博士課程プログラムへの信頼回復のための対策を実施し、 倫理違反に対する断固とした措置を講じています。教育・情報・図書館担当理事の平島崇男副学長は公式記者会見で陳謝し、「研究倫理、研究公正教育の更なる充実の徹底を図る」と述べました

また、不正行為の発見が遅れることで新たな犠牲がうまれます。最近の研究で、 論文が出版されてから不正行為により撤回されるまでにかかる日数の中央値は457日であることが示されました。これは、 その論文が他の研究に引用されて、不正行為がさらに大きなコミュニティにまで広がるのに十分な時間があることを意味します。

つまり、高等教育機関は、学内で起こる盗用・剽窃やその他の不正行為について、 あらゆるレベルで発見するための包括的な対策をとらなければ、自らをリスクにさらすことになるのです。


誠実な文化を築くことで盗用・剽窃を防ぐ

K大学の事例からも分かるとおり、一流の大学でさえ研究不正が隙を突いて起こることがあります。研究と出版の競争が激化するなかで、 研究不正に手を染める動機はいくつも考えられます。では、研究者がそのような罠にかかるのを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。

問題を可視化し、議論を呼ぶことが重要です。しかし、最近の研究によると、研究コミュニティと一般社会が、 不正行為で撤回された論文について十分な情報を得ているかを調べた結果、メディアの注目度に一貫性がないことが分かりました。 メディア報道を期待する、という受動的な方策に頼るのではなく、よい研究実践を支援する積極策を考えましょう。

アカデミック・インテグリティの指針と研究方針は、健全な研究文化の基礎であり続けなければなりません。しかし、研究不正がうまれ、 それが発覚している現状では、その理想が実現されているとは言えません。盗用・剽窃を事後的に対処するのでなく、未然に防ぐために、 テクノロジー・ツールを導入し、説明責任を全うしようとする大学や出版社が増えています。

この10年間、論文の撤回率の上昇を受けて、類似性チェックのためのツールを用いて規制を強める出版社が劇的に増えています。 このツールを使用すれば、投稿された論文をスキャンし、データベースを参照して重複箇所に目印をつけることができるので、盗用・ 剽窃の検知において、時間と精度に関する人間の限界を克服することができます。さらに大学は、 学内の研究者や学生にこれらのツールの活用を勧めることで、無意識の不正行為や自己盗用・自己剽窃を避け、 ジャーナルへの投稿論文がリジェクトされる可能性を低減させられます。

また、出版社が使用しているのと同じツールを用いることは、論文の出版可能性を最大化したい大学や研究者にとって非常に有益です。 出版社は不正行為を検知する「取り締まり」目的でこのツールを使用しますが、研究者が論文の執筆過程で同様のツールを使用すれば、 論文の内容をみずから修正し、倫理違反の誘惑をはねのけるための手段、いわば、正当な「救いの手」となるのです。

自信をもって出版するために、学術出版社も利用しているツールiThenticateで盗用・剽窃をチェックしましょう。

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*Butler, S. & Tupa, S. (2017). Researcher Market - Ithenticate and Individual Researchers. Internal Turnitin report: unpublished.