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アカデミック・インテグリティ方策の進化と現状 | ターンイットイン

The Turnitin Team
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Amanda De Amicis
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不正行為は学習そのものと同じくらい歴史があると言われていますが、その表現は的を得ています。そこには、 学生の不正行為への飽くなき欲求と、教育実践の変化に応じた不正行為の進化が映し出されています。不正行為の根絶を期待するのは非現実的ですが、 学習成果を保持するためには、盗用・剽窃や学生同士の共謀、 第三者への成果物の外注といった学術不正をあらゆる場面で阻止する取り組みを続けなければなりません。Turnitinは、アカデミック・ インテグリティ(学問における誠実性・公平性・一貫性)に反するリスクの特定や学生の不正行為の検知・防止に関して、 新たな展開やトレンドに精通し、実際にそれらを予期することでサポートします。

これまでのブログでは、盗用・剽窃の新たなトレンドや、類似性チェックを回避するためのテキストスピナーといった、 学術不正を助長する新たなテクノロジーについて、さらには盗用・剽窃の歴史的な重要な出来事までも取り上げてきました。 デジタル時代とオンライン学習やハイブリッド授業への移行は、アカデミック・インテグリティにとっていまだかつてない挑戦であり、 チャンスでもあります。私たち、非同期の学習環境で不正行為を行う学生に対処するために、より多くの対策を講じ、また同時に、 より大きな関心をもってこの問題の全容の可視化を図っています。では、学生に公正を浸透させ、不正行為を防止するために、 次にどのように取り組めばいいのでしょうか?

アカデミック・インテグリティを保持するうえでの教育業界の現状と、今後の展望について検討してみましょう。

アカデミック・インテグリティへの対応には、可視化と機動性の向上が必要

学習と指導実践が大きく変化するデジタル時代において、学生の不正行為が新たな形をとるのも当然です。たとえば、 パソコンとインターネットを活用したオンライン教育の普及により、盗用・剽窃の概念は、教科書の書き写しから、もっと簡単な「コピー・アンド・ ペースト」による盗用・剽窃へと拡大しました。しかし、テクノロジー(特に学生が活用できるもの)をアカデミック・ インテグリティを損なうものとして捉えるのではなく、テクノロジーの進化の現実を受けいれて、 学校や社会での新たな期待に応えられる学生を育てるために、いかに学生の行動を形作るかに焦点を当てることが重要です。

論文代行(contract cheating)はインターネットの出現よりもはるか昔から存在している学術不正の一つです。 文献に登場する最初の営利企業は1939年まで遡ります。しかし、eコマース技術の到来により、 論文代行を商業化する業界がこれまでにない規模で誕生しました。 テクノロジーの引き起こす混乱はプラスにもマイナスにも作用することが証明されています。教育機関は類似性チェックのソフトウェアを20年近く活用してきており、今では、アカデミック・ インテグリティの文化を守り、コンプライアンスを遵守しようと尽力する多くの高等教育機関や中等教育機関のスタンダードとなっています。また、 論文代行の疑いがある場合、学生の提出物のオーサーシップ問題を確認するために、 市販のプログラムやオープンソースプログラムを活用して文書のメタデータを入手できるようになったことも、大きな変化と言えるでしょう。

アカデミック・インテグリティの枠組みの拡大

アカデミック・インテグリティを保持するには、教員が学生にその方針を説明して強制するような静的なやり方では不十分です。 必要なスキルを身につけさせ、積極的な姿勢を確立するには、全員にアカデミック・インテグリティの責任があるという理解を、 教育のエコシステムの中に浸透させることが重要です。同時に、さまざまなタイプの不正行為を検知・報告・ 調査するには精神的にも多大なリソースが必要であり、スキルを指導して不正行為の予防策を講じるには時間がかかるという現状を鑑みると、 組織規模での包括的なアプローチも求められています。

事実、不正行為への対処は教員だけの仕事ではないという認識が広まりつつあり、 オーストラリアとニュージーランドの教育市場ではその流れが顕著です。ニューサウスウェールズ大学やサザンクイーンズランド大学、 マッコーリー大学では、アカデミック・インテグリティに対応するための専門部署が設置され、専門のスタッフが増えています。なかでも、 マッコーリー大学のケイン・マードック氏は、アカデミック・インテグリティを管理するうえでの「パートナーシップモデル」を提唱しており、 教員の教育的な専門知識と、専門スタッフの調査や取り締まりのスキルを組み合わせることを強調しています。

また、教育の最前線でアカデミック・インテグリティに注意を払い、違反の発生を報告するうえで、 より大きなサポートを切望する現場の声もよく耳にします。故トレイシー・ブレターグ准教授とロウェーナ・ハーパー博士らによる研究をもとにした、フェリシティ・プレンティス氏の博士課程の研究では、 教員が論文代行疑惑を報告することに消極的である理由として、不確実さと研修不足、 あるいは学生との信頼関係を壊すことへの不安が挙げられています。これは、学生の不正を立証して適切な介入を行うためには、 テクノロジーを活用し、非常に多層的な業務を処理する専門部署が組織内に必要であることを示しています。その必要性は、キャス・ エリス教授の#makeitsomeonesjob(専門部署をつくろう)というハッシュタグにも表れています。

嬉しいことに、アカデミック・インテグリティ問題の大きさを認識して、 組織や内部規定の壁を越えてより多くの分野が関わるアプローチが見られるようになってきました。オーストラリアでは、Tertiary Education Quality Standards Agency(教育の品質水準のための第三者機関)の尽力により、 論文代行業者の営業を禁止する法律ができました。同様の法律はアイルランドにもありますし、最近ではイギリスでも、 学生のアクセスという観点からこの問題に取り組むようになりました。

アカデミック・インテグリティを修復するための実践と、パートナーとしての学生

当初から、学術不正の阻止は「懲罰モデル」に基づいており、 不正行為がもたらす負の結果を強調して学生に尻込みさせるような懲罰的な手法がとられてきました。 たしかにリスクを学生に周知することにはメリットもありますが、マイナス面を強調するだけでは、学生が卒業後も個人的な信念としてアカデミック・ インテグリティをもち続けることは期待できません。また、この「リスクか報酬か」の思考が、 つねに私たちの期待通りに学生の頭のなかで展開されるわけでもありません。多くの研究において、アカデミック・ インテグリティに対するポジティブな価値観にもとづいたアプローチを学術機関に浸透させることの利点が指摘されており、 学生の不正行為の管理・抑止の方法に大きな変化が見られるようになっています。

アカデミック・インテグリティに関する指導機会が増加することで、 学生はスキル不足や知識不足による不正行為に対処できるようになっています。しかし、それは出来心による不正行為への特効薬にはなりません。 学生の心に響く方法で学術不正を抑止し、真の更生に役立つ方策にするためには、すべきことがまだたくさんあります。UNSWの「Courageous Conversations(勇気ある対話)」の取り組みは、 正しい方向へ進むステップとして良い例です。その取り組みでは、論文代行を利用した疑いのある学生に対して、最初に正直に話す機会を与え、 不正行為の聴取の前に罪をあがなう機会を与えています。この取り組みは、正直さを奨励することで、学生の軌道修正を行い、 不正行為を繰り返さないことを目指しています。また、処罰による学生の人間関係や学業への悪影響を最小化し、実質的に修復するものでもあります。

このような学生の体験に関しては、オーストラリア・アカデミック・インテグリティ・ネットワーク・フォーラム2022において、 カナダのアカデミック・インテグリティの専門家であるサラ・エレイン・イートン博士が2020年代以降のアカデミック・ インテグリティのトレンドについて発表しました。博士の特定したトレンドの中には、単なるコンプライアンスとは対照的に、 学生の倫理性とシチズンシップを促進するための、アカデミック・インテグリティに対する修復的な解決策という概念や、 学生をパートナーと見なす結合概念が含まれていました。ここから分かる重要なポイントとは何でしょうか? それは、アカデミック・ インテグリティは教育機関による純粋なトップダウンのアプローチではうまくいかないということです。学生の不正行為を乗り越えようとするならば、 学生の積極的な関与と協力が不可欠です。これは、オンラインやハイブリッドの学習環境で、 非同期型の学習を自分のペースで遂行するスキルを学生に教える場合はなおさらです。

学生が自分の学習の主導権を握れるよう、アカデミック・インテグリティ方策の改善に学生自身の声を反映させる動きが加速していますが、 アジア太平洋地域の多くの教育機関においては、いまだほんの初期段階にすぎません。そのようななか、ICAI(International Centre for Academic Integrity)は過去数年にわたり、学生の意見を可視化し、 学生を解決のためのパートナーと位置づける心強い取り組みを、「2022 International Day of Action Against Contract Cheating(論文代行防止国際行動日2022)」の活動として行っています。

人工知能(AI)がアカデミック・インテグリティに与える影響

学術不正を阻止し、学生の公正と独自の思考力を守るためのこれまでの教育的な取り組みを概観したところで、次はアカデミック・ インテグリティの新たな局面、人工知能に目を向けて見ましょう。人工知能は、教育のさまざまな分野に影響を及ぼしていますが、 もっとも大きい影響は学生の提出物でしょう。

すでに自然言語生成によって人間のような文章がつくりだされており、 今後は人間のつくった文章とほぼ見分けがつかない文章を作ることが目指されているのを知っていますか? 人間がいくつかの基本的なパラメーター (言わば「要点」)を入力するだけで、何千億もの単語を含むデータセットを備えたテクノロジーが、 ひとかたまりの文章を丸々つくりだしてくれるのです。もちろん、このテクノロジーがどれくらい読者のニーズに対応しているのかは、いまだ解決待ちの問題です。 しかしそれはもはやSF世界の話ではありません。OpenAIによるGPT-3の派生版としてChatGPTのような革新的なツールが生まれ、 AIライティングは身近になるだけでなく、その文章がよりリアルに、より人間らしくなりつつあります。さらに「大容量のコンテンツ作成」 をうたう後継のGPT-4のリリースも話題です。2022年12月のChatGPTの公開以降、 学生のアカデミックライティングにおけるアカデミック・インテグリティをどのように担保していくべきか、 AIと教育界はどのように共存していくべきか、 特にグローバルで浸透する剽窃チェックツールを提供する弊社では様々な媒体からの取材に応じております。また、 研究論文でのAIライティングの利用においては、研究公正の観点から学術ジャーナルの編集方針や投稿規定を改訂する等の影響が考えられます。

ディーキン大学のルシンダ・マクナイト博士によるAIライティングの研究がオーストラリアで注目を集めたので、 Turnitinの動画Integrity Mattersにマクナイト博士をお招きしました。インタビューのなかで、 「AIによるライティングの勢いは避けきれませんが、教育機関はそれに劣らぬスピードで考え方や学習評価を変えることができるのでしょうか?」 と質問しました。マクナイト博士は、学生はすでにその技術を活用していることを指摘し、 「学生がAIを活用して自分の能力を増強している可能性があるなかで、教員はどのようにハイステイクス・テストの公正を守るのでしょうか… 私たちは学生がそのような世界でライティングに取り組む未来に備えなければいけません」と答ました。

AIとともに進むべき未来とは

人工知能技術が、教育やアカデミック・インテグリティへの期待にパラダイムシフトをもたらすことは疑いようがありません。 当社のアジア太平洋地域バイス・プレジデント、ジェームズ・ソーリー(James Thorley)も、LinkedInに「Anticipating the impact of AI-based writing on education and assessment(AIによるライティングが教育と学習評価へ与える影響の予測)」 という記事を投稿しています。その記事では、私たちが堅持し続けたライティングの概念を変えることの難しさが示され、「オーサーシップとは、 私たちが学術や職業環境のなかで大切にする真正性や正当性の価値観の本質である。したがって、書かれたアイデアが、 信頼できる人間の著者から切り離される可能性を、集団的な脅威と見なすのも当然だ」と記されています。

しかし、その記事の続きでは、私たちのアプローチを組み立て直すよう、提案もなされています。とくに「認知的な負荷の軽減」という観点から、学生がAIのアウトプットをうまく活用することで、 学生の知識と成果の新たな可能性を開くことができます。AIの使用を禁止して時流に逆らうか、ガイドラインに沿って受け入れるか、 どちらを選択しても、それが教育の最初の(あるいは最後の)分岐点というわけではありません。当初は、 生徒の誤用のリスクが恐れられていた計算機も、やがて日々の教育と公正な評価に組み込まれていったことを考えてみてください。

私たちはすでに長い道のりを歩んできており、アカデミック・インテグリティと学生の不正行為の進化の過程で、 この先も間違いなく多くのことが起こるでしょう。TurnitinのAIへの対応に関して言えば、 当社のAIによる言い換え検知技術はほぼ完成しています。現在は、言い換え表現の類似性の指摘と報告が教員の解釈を助け、 情報に基づいた意思決定に役立つようになっているかを確かめるために、 製品のユーザーエクスペリエンスについてお客様のご協力をたまわっているところです。当社は、教育機関や教育関係者と提携し、 AI世界における独自性と公正の意味を再定義するために全力で取り組んでまいります。