米国の大学では学生にアカデミック・インテグリティを常に意識させるため、 課題や試験の冒頭でオーナーコードを記した宣誓文に署名させたり、教室内にポスターを掲げたりすることがあります。しかし、本当に学生への影響はあるのかその効果が検証されることは稀です。
日本ではあまり聞き馴染みがないですが、そもそも、オーナーコードとはいったい何なのでしょう?そして、 教育機関の価値観をどのように反映しているのでしょうか?
オーナーコードとは、成果物すべてが学生自身の手によるものであることを保証し、アカデミック・ インテグリティへの確固たる責任を明確にするための倫理基準です。学術不正を防ぐ方法は、アカデミック・インテグリティを授業や教育機関の中心的な価値観に位置づけ、 学生と教員のあいだで取り決めをつくるところから始まります。もし学術不正が発覚した場合、本質的にはすでに手遅れです。なぜなら、 その学生への対応策は懲罰的なものとなり、学生がそこから得る教訓は、オーナーコードの本質とはかけ離れてしまうからです。
オーナーコードを、授業や学校全体をとおして有効的に取り入れることで、教員も学生も、「事後的に取り締まって罰する」 という悪循環に陥ってしまうことを防ぎます。そして、事前に対策を講じるのが、学習過程においてアカデミック・インテグリティを意識を育み、 確立させるためにも有効です。
オーナーコードにより、アカデミック・インテグリティの共通の基準を知り、理解し、実践することができます。 組織で取り組むのが理想ですが、まずは個々の授業において徹底することから初めましょう。大切なのは、 学生と教員がさまざまな学習課題のなかで継続的・協働的にオーナーコードの実現に向けて取り組むことです。
では、具体的にどのようにすればいいのでしょうか?
授業のなかに、オーナーコードを取り入れるための具体的なポイントをご紹介します。
1.誠実性(アカデミック・インテグリティ)の文化を築く
学生や保護者、同僚の教員、事務職員など、すべての関係者のなかで、その教育コミュニティの基礎となるオーナーコードを確立させましょう。 アカデミック・インテグリティへの共通理解を築くことが第一歩です。その後、 それぞれの授業のなかで一貫性をもって意図的に実践する必要があります。明示的な指導や、アカデミック・インテグリティがなぜ、 どのような点で重要なのか意識を高めるための話し合う機会をもちましょう。共通理解を持つことで、 学校全体でも個々の教室内でもアカデミック・インテグリティの文化を築くことができます。
もし、教育機関や他の教員がオーナーコードを規定していなければどうなるのでしょう? 自分ひとりだけが授業でオーナーコードを取り入れることはできるのでしょうか?
答えは「はい」です。アカデミック・インテグリティの定義と、それが授業でどのように実践されるのかを学生とともに考えるなど、具体的なステップから始めましょう。 オーナーコードを遵守し、実現させるための鍵となるのは、学生とともに話し合い、実践することです。そして、 そのような機会を作るのは教員の義務です。
2.学生を中心とする
アカデミック・インテグリティを中心とした授業実践を行うためには、学生を中心に据えることが必要不可欠です。 学生たち自身の知識を生かすことが重要です。アカデミック・インテグリティとは何か、それは授業のなかでどのように実践されるか (あるいは実践されないか)について、学生に意見を求めることで、学生はアカデミック・ インテグリティの意義や教室内での実践方法について理解を深められます。授業の価値観を理解し、それをどのように実践するか、 それを違反したらどのような対応がまっているかなど、共通理解を図るための活動を取り入れることで、学生はアカデミック・ インテグリティをより強く意識し、実践するようになるでしょう。さまざまなリソースを活用して、話し合いや実践を行い、 教員と学生が一丸となってアカデミック・インテグリティの責任を果たすことが重要です。
3.教員がアカデミック・インテグリティの模範を示す
目に見える形でも目立たない形でも、アカデミック・インテグリティのモデルを示すことは授業実践の本質的な部分です。 学術不正はあらゆる分野で起こり得ます。学生の成果物に見られる学術不正の典型例には、ソースコードの盗用や出典を示さない引用、 不適切なクレジット表記などがあります。授業のなかで、教員自身が適切な引用により他者の功績を称える態度を示すことで、 学生の成果物に求める規範を示しましょう。それにより、学生は正しい引用方法を知るだけでなく、公正で包括的な学習評価のために最大限の努力が求められていることに気づくでしょう。 日々の作業や課題のなかでアカデミック・インテグリティがどのように必要かを明示的に示すことで、アカデミック・インテグリティが「重要な」 プロジェクトにのみ求められる条件のひとつではなく、普段の授業で着実に行われるものであると示すことができます。
4.ともに取り組む
意図的・形成的な空間のなかで教員と学生がともに取り組むかどうかが、教室や教育機関におけるアカデミック・ インテグリティの役割を決めます。コミットメントの仕方が授業により異なっていても、まったく問題ありません。 オーナーコードの誓約文に署名する場合や、アカデミック・インテグリティとはどのようなものかを話しあうだけの場合もあるでしょう。 いずれにせよ、その責任を常に刷新し、学生に意識させ、成果物の重要部分に置き続けることが目標です。アカデミック・ インテグリティに対する教員と学生の責任と成長がオーナーコードに反映されるよう、検討や振り返り、改善が大切です。
重要なのは、「早く、頻繁に、目的をもって、教員と学生が一丸となり、結果を振り返り、改善する」 学生と教員の間で協働的な会話を着実に積み上げ、アカデミック・インテグリティへの理解を深めることで、オーナーコードが実現できます。