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多肢選択式問題が教育にもたらしたインパクト | ターンイットイン

多肢選択式問題の歴史からみる、教育への効果と学習に役立てる方法

The Turnitin Team
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Christine Lee
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多肢選択式問題は学習を評価するための一般的な出題形式です。学生の知識量を客観的かつ効率的に測定する方法として支持されており、 統一テストや認定試験でよく使われています。その普及率の高さから、教育学の研究対象となり、広く研究されている出題形式です。 マークシート式もこれに含まれます。

多肢選択式問題を用いて 公正な学習評価を保持する方法を模索するまえに、 多肢選択式問題の歴史的背景を振り返り、なぜここまで普及しているのかを検討していきます。

教育において、知能の定量化に焦点が当てられるようになったのは20世紀初頭です。1905年、フランスの心理学者アルフレッド・ ビネーと、その共同研究者のテオドール・シモンが、現代のIQテストの元祖となるビネー・ シモン知能尺度を完成させました(NEA) 。

同じく知能の定量化を目的とする多肢選択式テストの起源は、フレデリック・J・ケリーの論文「Kansas Silent Reading Test(カンザス州黙読テスト)」にあります。ケリーは、主観を排除し、 効率的に生徒の読解力を測定することを目指しました。そして1914年、 この目的を達成するには多肢選択式の出題形式が最善であると考えたのです(Veritas Journal, 2019)。 当時、アメリカの中等教育は劇的な変化を遂げていました。 新しい法律により2年間の中等教育が義務化された結果、中等教育校への進学者が5倍に増加しました。現在、 受講生の多い大教室での授業に奮闘する教員が多肢選択式問題を採用するように、1914年にも効率的で迅速な試験方法が必要となり、 多肢選択式問題がその解決策として受け入れられたのです (Davidson, 2011)。
ワターズによると、「20世紀の未来志向もあいまって、教育システムの自動化を目指して多肢選択式を採用するのは当然のこと」でした。 当時の多肢選択式問題には次の三つの利点があり、それは現在にも共通します。第一に、客観性が高いと思われること、第二に、 大人数の答案を迅速に採点できること、そして第三に、多肢選択式により標準化が可能になることです(Watters, 2015)。

「標準化」という言葉に着目

生徒数の増加に伴い、学校間で情報を共有する必要性が生まれました。成績評価は標準化され、 より客観的で、評価基準に則したものになりました。同様に試験についても、多肢選択式問題は「科学的」であるとの考えから、標準化が進みました。 個人や学校の特性に合わせた試験ではなく、第三者にとって意味のある試験が求められるようになったのです。その結果、 1926年に全米大学入試委員会(現在のカレッジボード)は、SAT(大学進学適性試験)をこれまでの口述および小論文形式の出題から、 多肢選択式を用いた出題形式に変更しました(Wolfhurst & Ruzicka, 2021)。さらには、「大勢の生徒が同じテストを受け、同じように採点され、 すべてが数値化されて結果が比較されるので、機械時代のもうひとつの産物として統計学が発達した。最適な項目数や質問数などについて、 多くの統計学者がさまざまな精神測定の理論を考え出した」ことが指摘されています(Davidson, 2011)。

1930年代までには、多肢選択式問題と、True/False問題のような正誤問題が、全米の学校で広く用いられるようになりました(Ramirez, 2013)。また、世界的にも多肢選択式問題は普及しました。テストの標準化と、 教育機関のあいだで生徒の学習を数値化することが求められたためです。オーストラリアにおいて多肢選択式の試験が採用されたのは、 アメリカと同じく、人口変化と学生数の増加によるものでした。クレノフスキとワイアット=スミスは、 「オーストラリアの試験産業の出現には、学習評価の歴史における3つの局面が背景にあると理解できる。 第一局面は20世紀初頭の産業化と学校教育の普及、第二局面は20世紀半ばの中産階級と資本主義の台頭、そして第三局面は、 教育観や学校教育と評価の目的を重視すべきだという声が教育界からあがったときだ」と述べています(Earl, 2005)。

東アジアでは、中等教育機関や高等教育機関への入学試験を中心に、大人数教育のニーズに応えて多肢選択式問題が採用されました。とくに日本では、 「多くの日本人の教員は、論述問題・記述問題では公正な採点を保証できないと感じている。また、小論文や面接試験は、経済的・ 文化的に恵まれた家庭の子供に不当な優位性を与えると考える教員も多い」と言われています。そのため、平等という観点から、 文化的に多肢選択式問題、マークシート式が広く受け入れられています。その一方で、 論理的な文章作成や討論などのコミュニケーションスキルがないがしろにされていることが指摘されています(Momoki, 2016)。

しかし、前述の、多肢選択式問題の考案者であるケリーは、自身の発明が標準化テストを生み出したことを悔いることになりました。事実、 彼はアイダホ大学の学長時代に、一般的な思考力と批判的な思考力を重視したリベラルアーツのカリキュラムを提唱し、 標準化の流れに逆らおうとしました。そのような近代化への抵抗が原因で、1930年に解雇されてしまったのです(Veritas, 2019)。
今日では、多くの教員がケリーの晩年の思いに共感することでしょう。また、多くの教育学者が多肢選択式に疑念を抱き、 「多肢選択式テストは学習のきっかけにならない。テストに合わせた授業を行い、テストしない教材は扱わない、という悪習を引き起こす」 とまで言われています(Ramirez, 2013)。しかし多肢選択式試験がこれほど普及している事実は、実際的・実務的な観点とはいえ、 教育と学習において必要なギャップを埋めるのに役立っていることを示しています。

教員にとっては、多肢選択式問題とは率直に言うと、採点時間を短縮できるものです。また、学生にとっても、 多肢選択式問題は試験勉強がしやすいため、出題形式として根強い人気を得ています。 しかし、 多肢選択式問題やマークシート式は教員の採点時間は短縮されますが、暗記や受験戦略が重視され、 概念の習得が軽視され短絡的な解決策になってしまう懸念もあります。

では、多肢選択式問題を用いて評価の公正を保つにはどうすればよいのでしょうか。 いくつかの方法を見ていきましょう。


多項式選択問題の欠点を克服し、公正かつ包括的な試験を設計して学習を正確に測定する方法


  1. ひとつの試験のなかに複数の出題形式を取り入れるのが誠実な学習評価のための一手段です。 多肢選択式問題は短時間で幅広い知識をテストできるので、知識の深さを測る短答式問題と組み合わせれば、 学生の学びを幅広く評価することができます。
  1. アカデミック・インテグリティの観点から、不正行為を抑止することが重要です。多肢選択式問題は、 答えを暗記したり学生間で共有したりすることが容易なので、不正行為が起こりやすいものです。不正行為を防ぐために、 教員は複数のバーションの多肢選択式問題を用意する方法が考えられます。
  1. 形成的なフィードバックループの観点から見ると、多肢選択式問題は不完全です。 多肢選択式問題のフィードバックでもっとも一般的なのは、学生の解答が正しいか間違っているかを示すというものです。そのような ◯ か✖️かのフィードバックでは学生の学びを制限してしまいます。研究によると、より詳細なフィードバックとして、 「それぞれの選択肢がなぜ正しい/間違っているのかを強調する(例:選択肢Cが正しい理由は・・・で、選択肢Bは・・・だから正答になり得ない) 。このような選択肢の比較は学習者の知識の差を埋めることに役立つが、他方で、それぞれの選択肢を詳細に検討することで限界も生まれる。 この種のフィードバックは、学習者が所有する知識を、類似の新しい学習項目に適用すること(近い学習転移)には役立つだろう。しかし、 フィードバックが特定の問題に特化しすぎると、遠い学習転移(なじみのない文脈での新たな問題や、構造的に関連した新しい問題への転移) には役立たないかもしれない」と指摘されています(Ryan, et al., 2020)。
  1. 多肢選択式問題では、間違いが明らかな選択肢を排除しましょう。研究によると、「もし設問が、『もっとも適切な答え』や 『主な理由』、『もっとも可能性の高い解答』を選ぶよう指示していれば、選択肢のいくつかは正しいが、 正答ほど正しいわけではないことを意味するので、そのような問題に解答するにはより深く考える必要がでてくる」のです(Weimer, 2018)。推測を難しくし、学生の知識を正確に測りましょう。
  1. 項目分析は多肢選択式問題を補強し、簡単すぎたり難しすぎたりする問題を特定するとともに、 その他の不規則な点や学生の解答パターンを明らかにします。たとえば、項目分析により、 学生が選ばない選択肢を特定することで、間違いが明らかな選択肢を除外することできます。

学習評価の信頼性は、学術的な評判とアカデミック・インテグリティにとって非常に重要なものです。多肢選択式問題は、 学習測定の効率化を図り、客観性を高めるために導入されました。学生の知識を幅広く効率的に測れるので、広く用いられています。 多肢選択式の歴史とその限界を理解したうえで、適切な工夫を加えれば、誠実な学習評価を実践できるでしょう。