大学における人工知能(AI)とAIライティングの統合は、この1年間で教員者や教育機関の強い関心を引く、重要なトピックとなっています。
そこで、20年近い経験をもち、米バージニア州のリンチバーグ大学で准教授を務めるレスリー・レイン博士に、AIライティングがカリキュラムにもたらす可能性を生かす方法について知見を伺いました。
インタビューでは、博士は主に5つの分野に焦点を絞って、AIを統合するためのヒントを教えてくれました。
- AIライティングツールを学習補助として取り入れる
- 建設的な使用に重点を置く
- 独自の思考を奨励する
- 技術の変化を受け入れる
- AIツールを学術機関の方針に組み込む
AIとAIライティング検知ツールを教育機関でいち早く活用してきたレイン博士の上記のヒントや経験談、専門知識は、テクノロジーが牽引する現在の学術環境においてとくに重要です。
レイン博士のEdTechとAIツールの活用歴
レイン博士はリンチバーグ大学の教員として、教育テクノロジー(EdTech)とAIツールの開発と実装に深く携わってきました。2004年の秋にリンチバーグ大学に着任して以来、新入生向けのライティングクラスを延べ76回担当し、合計104のクラスでTurnitin製品を使用してきました。この豊富な経験により、学内では、カレッジ・ライティングのコーディネーターを務める「Turnitinの第一人者」として重要な役割を担っています。
TurnitinのAIライティング検知機能がリリースされる前から、レイン博士は学生へのフィードバックと成績評価プロセスの効率化のためにTurnitin製品を愛用してきました。つまり、博士はAI検知機能を取り入れる準備ができていただけでなく、Turnitinのワークフローにすでに精通していたのです。
効果的なAIライティング検知ツールが登場する前の苦労を振り返って、レイン博士は「オンラインの検知ツールにテキストをコピー&ペーストするのは本当に時間がかかる作業でした」と述べています。AIライティング検知は必須のプロセスですが、非効率かつ不正確であっため、信頼できる効率的なソリューションの必要性が浮き彫りになりました。TurnitinのAIライティング検知ツールの導入は、一貫性と待望の効率性を提供してくれるゲームチェンジャーとなったのです。
「小論文の採点には時間がかかります。私は必要な作業の完了にかかる時間を非常に細かく調整していますので、TurnitinにAIライティング検知機能が搭載されると聞いて大喜びしました。これですべてを1つの環境にまとめられるようになるのですから。」
他の多くの教員と同様に、レイン博士も学生の論文のアカデミック・インテグリティを確保しつつ、成績評価プロセスを効率化するというアイデアに魅力を感じました。2023年10月にリリースされたTurnitinの新たな類似性レポートは、類似性チェックとフラグ付け機能、AIライティング検知機能を1つのワークフローにまとめ、見やすさとシンプルさを追求した、完全統合型のユーザー体験を提供しています。レイン博士は「クリックばかり1,000回も繰り返すような作業が不要になりました。フィードバック、採点、AI検知、盗用・剽窃の検知も、すべて揃っています」と評価しています。
AIを教育ツールとして使用する価値と課題
レイン博士のアプローチの中心的なテーマは、教育におけるAIの建設的な使用です。AIをアカデミック・インテグリティの脅威と見なすのではなく、学習プロセスの中にAIを組み込むことを提唱します。博士は「新入生のライティングの授業ではAIを実際に用いて教えています。ほぼすべての授業で学生はChatGPTを使っています。このようなAIを使った実践的なアプローチにより、学生はこれらのツールを効果的かつ倫理的に活用し、使いこなすスキルを身につけるのです」と説明します。
AIツールを授業にうまく導入した事例は北米全体で数多くあります。たとえば、147の中学校と高校から18,700人が参加したアメリカの研究では、代数の成績変化を分析した結果、AI教育ソフトウェア「MATHia」を従来の教科書と併用した学生は、教科書のみで学習した学生よりも平均点が顕著に高かったのです(Pane et al., 2014)。また、教育における人工知能が単純で反復的な作業を肩代わりすることで、教員の事務作業の負担が軽減することを期待する研究もあります(Qin et al., 2020)。
そうは言っても、AIツールの有用性に関わらず、レイン博士は学生が文章で独創性を発揮できるよう教育する重要性を強調します。博士は学生の批判的・創造的な思考を促す課題を作成することで、学生がAI生成コンテンツのみを使用する誘惑に陥らないようにしています。
「授業ではChatGPTを使って指導しており、学生には文章の構成やブレインストーミングの補助に使わせています。[Turnitinを]懲罰のための検知には使用していません。学生をフォローし、もっと自分自身の言葉や表現を使うように促すために、自分自身への注意喚起として利用しています。」
レイン博士のAIライティング検知ツール活用の特徴は、懲罰のための手段ではなく、学生の成長に焦点を当てていることです。このようなアプローチにより、学生が懲罰を恐れることなくライティングスキルを向上させ、自分自身の言葉や表現を育てようと励む学習環境が生まれます。
またレイン博士が強く意識しているのが、学生にAIライティングツールの適切な使用と引用について教えることです。教員にとっての課題の1つは、AIライティングツールをライティングプロセスにどのように適切に組み込むかです。論文内でのChatGPTなどのツールの引用方法を学生に教えることは当然です(英語)。博士は、「学生に盗用・剽窃について教える際には、(出典を示さずに)AIで生成した文章を提出することも同様にアカデミック・インテグリティ違反になると伝えています。自分の名前を書いて提出するというのは、その提出物が自分の作品であると倫理規定に誓うことだと教えています」と述べています。
著書『International Students:A Conceptual Framework for Dealing with Unintentional Plagiarism(留学生:意図せぬ盗用・剽窃に対処するための概念的枠組み)』の中、でアーシュラ・マクゴーワン氏は、学部生を新人研究者と見なすべきであると指摘します。とくに意図しない盗用・剽窃が発生した場合には、学部生は指導と支援を受ける必要があると強調します。マクゴーワン氏によると、そのような状況で提供されるフィードバックは、批判的な要素を一切含まない、完全に建設的なものであるべきです(2008)。
これはとくに注目すべきことでしょう。というのも、最新のTyton Partnersの調査(英語)*によると、教育機関の97%がAIライティングに関する正式な方針を設けておらず、それらのツールの利用・悪用に関する意思決定と指導は個々の教員に委ねられているからです。独自性と不正の境界線がきわめて曖昧なアカデミック・インテグリティの分岐点において、教育機関は学生を罰するのではなく、指導のために取り組みを強化する必要があります。
*Turnitinは、この研究実施のための報酬を提供するパートナーでした。
授業で生成AIツールを効果的に活用する方法について詳しく知る
教育におけるAIの未来
生成AIツールに対する教員の全体的な認識として、過去にはメディアとサイエンスフィクションが流布したAIのイメージからの影響が顕著でした。AIとは学習や指導を強化するために活用するものではなく、自分たちの仕事を奪う職業的な脅威であると考えられてきました(Luckin et al., 2016)。
しかし、「ネガティブ」な印象にもかかわらず、新たなAIツールが一般に公開されるとその活用法を積極的に模索する教育者も大勢います。アメリカ合衆国教育省の教育技術局は次のことを指摘しています。
「教育者たちは、音声認識などのAI機能の活用は、障害のある学生や多言語学習者など、学習用デジタルツールがもたらす適応性と個別化の恩恵を受ける可能性のある学生への支援を強化する機会と捉えています。彼らは、AIが授業の計画や改善にどのように役立つか、授業のための教材を見つけ、選び、採用する過程でどのようにAIを活用できるかを模索しています」(Cardona et al., 2023)。
今後を見据えて、レイン博士は教育における生成AIツールの役割について、楽観的でありながらも現実的な見方をもっています。「AIツールの使用に対する学生の意識とスキルはどんどん高まっていくでしょう。そのような未来は確実に訪れます。学生にAIの使用をかたく禁じ、使用が発覚した場合には罰がくだると学生を脅せると考えるなんて、冗談もいいところです。そのような厳格な方針を設ける大学を見るたびに、『未来を受け入れて!』と思っています。未来はすでにここにあって、どんどん進んでいる。これからも進む一方でしょう」と博士は述べています。
このような前向きな考え方を、AIが教育の必須要素となる未来に向けて教員と学生の双方がもつことが重要です。実際、大半の教員は、学生の職業上の成功のためにAIツールが必要となると強く信じています。さらに驚くべきことに、学生の75%が(英語)、教育機関で禁止されていようともAIを使う準備があると回答しており、レイン博士のような教員が責任を持って効果的にAIを授業に組み込む必要性がこれまで以上に高まっていることがわかります。
AIツールを授業でどのように使うのか
研究によると、新たな教育テクノロジーをうまく導入できるかどうかは、授業を行う教員自身の資質と密接に関連しています(Fernández-Batanero et al., 2021)。このことを念頭に、教員が責任をもってAIをカリキュラムに効果的に取り入れられるよう、レイン博士による上位5つのヒントをまとめました。
レイン博士からの5つのヒント:
- AIを学習の補助として取り入れること。AIツールを検知目的だけでなく、教育体験を向上させるために活用しましょう。正式な指導や許可の有無にかかわらず、学生がこれらのツールを使用することは明らかです。そのため、このような影響力の大きいものについて枠組みやガイダンスを提供することが有益です。ブレインストーミングや文章編集の練習から、第二言語学習者の支援まで、生成AIツールを積極的・生産的に取り入れる機会は無数にあります。
- 建設的な使用に重点を置くAIライティング検知は学生のライティングを指導し、改善するために使用でき、そうあるべきです。AIの活用法については、多くの人が認識している以上にさまざまなことができます。たとえば、第二言語学習者が大規模言語モデル(LLM)を搭載した翻訳ツールを使用したかどうかAIライティング検知ツールで確認することもできます。
- 独自の思考を奨励する批判的・創造的思考を促す課題を設計し(英語)、学生がAI生成コンテンツに依存する機会を減らしましょう。執筆プロセスに焦点を当てた課題を作成することができれば、最終成果物が段階的に形になっていく過程を確認できるため、学生が提出物の作成においてAIをフル活用することへの懸念が軽減されます。
- 技術の変化を受け入れる気が遠くなるかもしれませんが、教育においてAIの役割が大きくなっていることを認識し、そのための準備をすることが重要です。新たなテクノロジーをカリキュラムに取り入れることに価値があります。学術界で進化し続けるAIに対応するために、教員と学生の双方に役立つ こちらの資料 をご覧ください。
- AIを学術機関の方針に組み込むこと。AIの進化をつねに把握し、絶えず適応していきましょう。これらのテクノロジーを有効に活用するための指導戦略だけでなく、変化するテクノロジーに対応した学術方針も作りかえて行く必要があります。
AI時代に対応したアカデミック・インテグリティ・ポリシーを更新する方法について詳しく知る
まとめ:高等教育でAIライティング検知を活用するには
レスリー・レイン博士の先駆的で実践的な知見は、アカデミアでAIを取り入れようとする教員にとって貴重なロードマップとなります。AIの教育的な可能性を重視しつつも学生の成果物の独自性を尊重し、AIライティング検知ツールをさらなる教育のために使うという博士のアプローチは、不安視されることの多いこの分野においてバランスのとれた視点を提供してくれます。
このAI主導の時代で前へ進むために、テクノロジーを活用してアカデミック・インテグリティを保持する方法を見つけることが必要不可欠です。教員や教育機関が積極的に適応することで、有意義かつ倫理的にテクノロジーの可能性を実現できます。このような将来を見越したアプローチにより、学生はこれらのツールの使用だけでなく、その影響を理解するようになり、AIリテラシーが必須となる未来に向けて備えることができるのです。