ターンイットインのカスタマー・エンゲージメント・スペシャリスト、Gill Rowell(ジル・ロウェル)にインタビューし、 アカデミック・インテグリティ(学問における誠実性・公平性・一貫性)の話し合いを学生と行うことについて、専門的な見解を伺いました。ジルは、 学生を介さずに教員だけで一方的にアカデミック・インテグリティ方針を策定するのではなく、学生との対話の機会をもち、 学生の側の視点を取り入れると、驚くような結果が期待できるはずだと言います。
盗用・剽窃について議論するとき、アカデミック・ インテグリティ対するあらゆる違反を学術的不正行為として分類したくなるかもしれませんが、ジルは、そもそも盗用・ 剽窃とは何なのかを学生が理解できるよう、学生と協働することを提案します。「盗用・剽窃は良くないことだから避けるように」 という指導ではなく、学生が他の授業では学べないような価値観や倫理観について話し合い、学生とのつながりを築くことが大切です。 それらの対話の中で特に重要なのが、学生に自分の意見をもつよう奨励することです。それにより、 学生が自分なりの倫理基準を自覚できるようになるからです。学生がアカデミック・インテグリティについて批判的に考え、アカデミック・ インテグリティが自分にとって何を意味するのか、どのように自分たちの生活で実践するのかを考えられるようになるでしょう。 これは学生個人のためになるだけでなく、より幅広い学術界の中でアカデミック・インテグリティの文化を促進することにもつながります。 そこで今回は、アカデミック・インテグリティへの取り組みに対するジルの貴重な体験談を紹介します。
ジル・ロウェル:以前、盗用・剽窃やターンイットインの製品についての研修を頻繁にを行っていたとき、 「なぜ教員は、出典を明記するよう学生に求めるのか?」という話をよくしていました。盗用・剽窃という観点で見ると、出典の明記を求めるのは、 学生が文章の帰属に責任をもち、盗用・剽窃に陥らないようにしたいからです。しかし別の観点から考えると、出典の明記を求める理由は、 学生が文献を幅広く読み、トピックについて研究し、さまざまな考えを網羅し、 それらの観点を自分のものとして吸収したことを示してもらいたいからです。そのような観点から考えると、出典の明記は、 学生が研究プロセスを理解する第一歩としてとてもよい練習となります。
アカデミック・インテグリティについて学生と話すことは、そのような良い実践を見せる絶好の機会です。 学校や大学で教員が学生に教えているのは、 学生が異なる視点や情報源に触れるためのスキルや能力を身につけることの必要性を示すチャンスでもあります。そのような観点から、 情報源の倫理的な使い方とはどのようなものかについて話し合いを展開することができます。指先ひとつで非常に多くの情報に触れることのできる今、 情報源の適切な扱い方や良い一次資料を見つける方法、 ソーシャルメディアなどさまざまなタイプのコンテンツを正確に引用する方法を学生に教えるのが私たちの役目です。
学生がAIライティングを用いてアカデミック・インテグリティを保持する方法はありますか?
ジル・ロウェル:AIという観点から考えると、ChatGPTのようなAIライティングツールの使用を全面的に禁止する学校や大学もあります。 私には、それは学生に対して不当な扱いをしているように思えます。学生たちは、 今後の人生のなかでこれらのツールを使うスキルをどのように身につけるというのでしょうか?学生がのちに進学するときや就職するとき、 現在予測されているようにAIが支配的な社会になっていれば、これらのスキルが必要となります。そのために学生は、 これらのツールを適切に使用できるように準備しておいたほうがいいでしょう。実践を通して優れたテクニックを身につけ、 AIを適切にかつ倫理的に活用できるように練習する必要があります。そのなかで、学生を罰したり否定的な面を強調したりするのではなく、 学生にアカデミック・インテグリティを身につけさせるための前向きな対話をもつことが重要です。
ジル・ロウェル:学生と協働し、アカデミック・インテグリティとはどういうものか、 学生を巻き込んで話し合うことで、授業のなかで学生がアカデミック・インテグリティを守れるようになるのが理想です。これまでの私の経験上、 この話題について学生の意見を引き出す方法がいくつかあります。学生との協働を促すために、次のような質問から始めてください。
- あなたにとってアカデミック・インテグリティとは何か?
- なぜアカデミック・インテグリティが重要なのか?
- 盗用・剽窃とはどのような行為か?
- アカデミック・インテグリティがなければ、どのような事態が想定されるか?
- 学術のリテラシーを身につけるにはどうすればいいか?
- どのようなリソースを活用できるか?
- 盗用・剽窃から何を学べるか?
ジル・ロウェル:ICAIはアカデミック・インテグリティの6つの基本的な価値観として、「正直」「信頼」「公正」「敬意」「責任」「勇気」を挙げています。 これらの価値観についてよく考え、その意味を正しく理解することが大切です。数学の授業や教科書を読むことでは学べません。しかし、 アカデミック・インテグリティを実践するなかで、とくに、アカデミック・インテグリティに関する対話を通して学ぶことができます。たとえば、 「正直」とは出典を適切に示すことで情報源に敬意を示すことです。それが「正直」で「公正」な行為です。私たち全員が、 これらの指針に従う誠実さをもっており、自分の成果物が他者から尊重されることを分かっていれば、「信頼」が生まれます。「勇気」が一番最近、 付け加えられたのは興味深いです。つまり、正しいことをするには勇気が必要で、それを学ぶのが大切だということです。これらの価値観は、 研究倫理に関わる価値観とも同じです。
ジル・ロウェル:実際のところ、このような勇気ある対話のきっかけとして、 教員が使用できるツールがあります。ターンイットインの類似性レポートなどのツールは、 情報源の倫理的な使用について対話を始める良いきっかけとなります。参照する文献の優先順位の付け方や、 ウィキペディアに頼らない理由などについて話し合うことで、ターンイットインの類似性レポートを形成的に活用できます。学術ジャーナルなど、 どのようなリソースを活用できるのかについて話し合うことも、指導のチャンスとなります。どの情報源が一番便利かではなく、 どの情報源をどのタイミングで用いるのがもっとも適切かを学生に考えさせることができます。学生をルール作りに参加させることで、 学生自らがそのルールを守るようになると思います。
ジル・ロウェル:特にアメリカでは、多くの教育機関が、選出された学生による団体をもっています。 かれらはアカデミック・インテグリティを含む学術行為に関する議論を取り仕切り、 これらの価値観を保持するための環境作り及び維持に貢献しています。アカデミック・ インテグリティを実践するためにそのような団体に所属する必要はありませんが、勉強だけでなく、日々の学術的な行為すべてにおいて、 アカデミック・インテグリティのうえに学生生活を成り立たせる必要があります。
そのため、学生を会話に参加させることが重要です。自分のすぐ近くにあることを意識し、失敗する覚悟をもたせる必要もあります。 学生が真の自分を見せ、実際の体験を通して学べるよう指導しましょう。教員が間違えることもあるでしょう。けれど、 その失敗は改善につながります。そこで、真の学びが生まれるのです。学生の学びのために安全な環境とリソースを準備していることで、 学生は安心して教員を頼ることができます。そのような教育現場で、形成的な学習ツールとしてターンイットインが価値を発揮するのです。
また、学生が不安を感じたり、学習支援が必要なときには助けを求めて良いと思える環境を用意することも大切です。この数年間、 とくにパンデミックでオンライン学習に切り替わった期間は、そのような学生をサポートするセーフティネットがなかったように思います。 残念なことに、論文代行サイトが、学生の弱みにつけこんで高額な料金でサービスを提供している場合もあります。 学生が必要な支援を得るには学校や大学のどの部署を頼ればよいのか、明確に示す必要があります。
ジル・ロウェル:基本的な倫理観としてのアカデミック・インテグリティに話を戻すと、学生は今、 このスキルを学ぶ必要があり、教育者はかれらが適切に学べるよう手助けする必要があります。このスキルは、学業やキャリア、 日々の生活のなかで求められるスキルです。そのための対話に学生を参加させることで、学生が自分の倫理観のあり方について、 自分なりの考えをもつことができるようになります。
アカデミック・インテグリティについて学生と対話する方法について、ジル・ ロウェルは学生の関与についての専門的な見解とすぐに役立つ実践的な方法を共有してくれました。懲罰的なアプローチではなく、 対話と学びの機会をつくることで、学生はアカデミック・インテグリティの重要性を理解し、スキルを身につけることができます。そのためには、 学生にルールや規則を教えるだけでなく、倫理観や価値観について話し合いを展開することが大切です。そのような対話に学生を巻き込むことで、 アカデミック・インテグリティの根底にある原則と、それが自分の価値観や信念にどのように関連しているのかを深く理解することにつながります。 アカデミック・インテグリティは、学生が学業と社会に出た後は仕事も通じて学び、実践する必要のある基本的な倫理観です。私たち教員には、 アカデミック・インテグリティを保持するために必要なスキルを教え、倫理観や価値観についての対話に学生を参加させる責任があります。